2017-06-07

オプス(opus) とトポス(topos)


アイヌ語で死をあらわすのに「耳と耳とのあいだに座る」という表現があります。たしかに「耳と耳とのあいだ」は、意識からの距離が近いと同時に遠いような、とても奇妙な孤絶感覚をおぼえる場所。生物をぽつねんと存在せしめるトポス、というか。

ぽつねんと三角獣(トリケラトポス)に坐す我か  安井浩司

最新句集『烏律律』からの一句。トリケラトプス(三角獣)の「トプス」を「トポス」としたのが斬新です。

実は関悦史さんのブログでこの句を見つけた時「もしかして誤写?」と一瞬疑ったのですが、とはいえこれだと「トポス」と「ぽつねんと」との「ぽ」の音の響き合いが絶妙なんですよね。

句中「三角〜に坐す我」が体育座り(関西ではそのまま「三角座り」と言いますね)を連想させることで「ぽつねん」という語の印象も深まっていますし、トポスが三角形(ツノからカドへのスライド)だというのもシンプルな聖性を感じさせますし、すごく凝った細工です。

さらに書くと、トリケラトプスの語源は「tri(3)+cerat(角)+opus(顔)」なので、トリケラトポスは「tri(3)+cerat(角)+topos(場所)」。つまりこの句は「獣に生えた1本の鼻角と2本の上眼窩角とが描く三角形に坐る私」の光景であり、先に見たアイヌの表現と比較しても「耳」と「角」ということでイメージ造形が非常に近い。ファンタジー文学として眺めても大変のどごしが良いです。

(追記 関さんに確認したところ、確かにこの通りの表記だそう。安井浩司、面白いですね。)