2018-12-17

歌うことの衝動性





いつも覗いているsnowdropさんのブログより()。


「シャッポンをかぶって行きや」母の母が母へかけたる声し思ほゆ
「シャッポンをかぶって行きや」母の母が母へかけたる声し遠しも
「シャッポンをかぶって行きや」母の母が母へかけたるはるかなる声

Porte ton chappon(chapeau) !
la mère de ma mère
disait à ma mère
dans son enfance
il y a longtemps

ほんの少しだけ違う短歌を3つ並べる作法は、なんだか3つの梨を寄せた静物画(桃でもいいですけど)を眺める気分です。そしてフランス語版の、なんという深き味わい。

もちろん、詩作の勘所というのはあっさりと言語を越えます。レーモン・クノー『文体練習』で

L'autobus arrive
Un zazou à chapeau monte
Un heurt il y a
Plus tard devant Saint-Lazare
Il est question d'un bouton

という短歌を読んだときも、クノーが七五調の韻律をよく理解していることに感動しつつ、ま、そうだよねと思いました。
でね、snowdropさんの短歌ですが、歌うことの衝動性が全く失われていないところが素敵です。ブログを拝見していると、軀の温度、胸の鼓動、喉の振動がそのまま形になったような、血の通った囀りばかりでほんと楽しい。

書くときは、いったん言葉を捨て、歌い出しの息へと還ること。記憶の中や身の回りの物音に耳をすますこと。そして胸をつんざく衝動から始めること  そんなことを思いながら。