2019-06-30

ゆめな忘れそ




熱波まっさいちゅうで死にそう。クーラーがないから笑っちゃうほどこたえます。

思ふ人侍りける女に物のたうびけれど、
つれなかりければ遣はしける

思ふ人思はぬ人の思ふ人思はざらなむ思ひしるべく
読み人知らず

不逢恋(あはぬこい)逢恋(あふこい)逢不逢恋(あうてあはぬこい)ゆめゆめわれをゆめな忘れそ
紀野恵

この組み歌、前からやりたかったのです。紀野の古典で遊ぶシリーズが大好きで。「書簡集」もいいですよね。

2019-06-29

私は、もはや透明な波でしかなかつた。




土曜日の読書「日々の泡」更新。引用は坂口安吾「ふるさとに寄する讃歌 夢の総量は空気であつた」より。安吾2作目の小説ですが、これを読むと人間というものがいかに成長しないかがわかって怖いです。このあとさまざまな体験をし、また作家としての技量も上がったのに、年をとってもみごとに同じことを書いているというね。自分を省みてしまい眩暈がします。三つ子の魂って……

ともあれ「夢の総量は空気であつた」は個性的なタイトル。この小説は冒頭も良くて、

私は蒼空を見た。蒼空は私に泌みた。私は瑠璃色の波に噎せぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかつた。私は磯の音を私の脊髄にきいた。単調なリズムは、其処から、鈍い蠕動を空へ撒いた。

うーん。また3作目「風博士」も、とっても安吾。

諸君、偉大なる博士は風となったのである。果して風となったか? 然り、風となったのである。何となればその姿が消え失せたではないか。姿見えざるは之即ち風である乎? 然り、之即ち風である。何となれば姿が見えないではない乎。これ風以外の何物でもあり得ない。風である。然り風である風である風である。

2019-06-28

音のこどもたち



往復書簡「LETTERS 古典と古楽をめぐる対話」更新。第6回は「音のこどもたち」です。雨の日の音楽、「人はつねに愛するものについて語りそこなう」、ヴィオラ・ダ・ガンバ、リルケとブレイクの詩、音の子供たち。上はこちら、下はこちらからお読みいただけます。

ヴィオラ・ダ・ガンバはイタリア語で「脚のヴィオラ」を意味し、18世紀の後半まで使われていた楽器です。形はチェロに似ていますが、ヴァイオリン属ではなくリュートやコントラバスの仲間です。弦はたいてい6~7本で、ネックにはギターのようなフレットがあります。

今回の手紙でなにげに衝撃だったのがここ。6~7本? なんと決まっていないとは。しかも、たいてい? じゃあ5本や8本も稀にあるということ? こうした部分に、楽器という生き物の「運命」が見え隠れしていているもよう。

亡国の隠しボタンがある泉  小津夜景

2019-06-27

抽斗堂 no.31 0€紙幣




抽斗堂no31は0€紙幣。欧州中央銀行承認の本物のお金です。素敵な絵柄のものがたくさん発行されているのですが、そういうものは使ってしまう(本を贈るときにしおりとして挟む)ので、家にはこんなものしかありません。

造幣局が印刷しているだけあって、紙質や偽造対策も万全。画像上、左下の横棒は触覚識別ライン。その上は透かし絵。大きな「0」はマイクロ文字。右上のキラキラはホログラム。右下はナンバリング。もちろん全体のトーンもマイクロ文字を使用しています。

さて気になるお値段ですが、どれも1枚2€です。でも絵柄が定期的に変わるのと、いろんな団体が観光ないし記念事業の一環で紙幣をつくるのとで、珍しいものはどんどん値が上がる。宗教改革500周年記念として発行されたルターの0€紙幣は大きな話題をさらいました。新手の免罪符か?なんて言われたりして。あと去年のマルクス生誕200年記念紙幣も増刷がかかったようで、いやー資本主義って怖いですね。マルクス生誕200年は信号機もよかった。万国のマルクス・ラヴァーズにこの画像を捧げます。

2019-06-26

抽斗堂 no.30 肉のしおり




抽斗堂no30は肉のしおり。ある俳人に案内された、合羽橋道具街の食品サンプル屋で見つけました。ここは実際の制作体験もできるらしい。

一つ一つ手作りで、ベーコンの方はぎとぎとした汚らしい感じがたまりません。生ハムの方は熟成っぽい透明感があって、本にはさむと綺麗。夏にぴったりだということに気がついたので、抽斗から出して使用することにします。

2019-06-17

抽斗堂 no.29 体操用ボールペン




抽斗堂no29は体操用ボールペン。BICのクリスタル・ボールペンのお尻に火で炙ったマチ針を指し込んで、瞬間接着剤で固めてあります。

さてこれをなんの体操に使用するか。答えは眼性疲労改善のための眼筋トレーニングです。目の疲れをとるのに「ペン先を見つめる」という方法がありますが、あの「ペン先」というのが凝視できるようで、実はできない。それで赤いマチ針をお尻にくっつけて「先端」を創造したのでした。

2019-06-15

戦争の絵葉書、追記


●「土曜日の読書」復活しました。今週は海野弘『都市の庭、森の庭』です。

抽斗堂no.27の絵葉書に質問などをいただいたのですが、素人なので答えられず。そのかわり追加で2枚。


戦闘中の歩兵。砲撃下の小隊が甲羅を形成する風景。


右上に「シャロン野営地、75mm口径砲の射撃」とありますが、背景や説明文の異なるモノが出回っていて実際の場所は不明。昔の絵葉書ってオリジナルの真偽が難しい。その道のプロに質問するのが一番賢明です。私はわからないまま、すこやかに生きています。

2019-06-13

抽斗堂 no.28 キャラメルの缶




抽斗堂no.28はキャラメルの缶。直径7,5cm、深さ2cm。ソフィア王妃芸術センター内のショップで発見しました。キャラメル入りで1,9€だったのに、指の腹をかける凹みもあるし、蓋の縁も開きやすいよう斜めにカットされていてちょっとすごい。

すごいといえば、この美術館にはピカソの「ゲルニカ」があるのですが、実は私、絵画にあてられたショックで涙が止まらなくなった唯一の経験というのが「ゲルニカ」を観たときなんです。作品の前に立って細部を追っていたら、えも言われぬ悲しみが込み上げて、ひとりでに滝の涙になっていた。全くもってヒューマニズムとは一切無縁の、イデアのように純粋な悲しみが胸を撃ち抜いたんですよ。

ピカソの作品ってそれほど好きじゃない上に、それまで「ゲルニカ」も退屈な絵だと思っていたから何重にも衝撃でした。なるほど、この人は天才なんだなって。

2019-06-12

LETTERSの散歩



今回の「LETTERS」用に撮影した写真。2枚目以降は記事に使わなかったものです。


この辺りは岸壁。縁がベンチになっています。


海岸歩道とベンチ。


慰霊碑が見えてきました。


岩の上は平らになっていて、公園と古代遺跡があります。


岩肌のラベンダー。


戦没者名は手書き風のレタリング。


広場から少しだけ見える港。


芝生にキンポウゲ。

2019-06-11

抽斗堂 no.27 戦争の絵葉書




抽斗堂no.27は戦争の絵葉書。サリヤ広場の絵葉書屋さんで集めています。骸骨はノートルダム・ド・ロレット戦没者墓地の地下聖堂。死体はマルヌ会戦の現場(こちらに追加の絵葉書あり)。

ここの絵葉書屋さんはフランス国内の風景写真に強いんですよ。戦争地ものばかり探している女性は少ないのか、店のご主人は私のことを研究者だと思っているようす。 

そんなわけで今月号の往復書簡「LETTERS 古典と古楽をめぐる対話」の(下)に西部戦線激戦地シュマン・デ・ダームの絵葉書を3枚添えました。(上)に添えたニース戦没者慰霊碑はパリのノートルダム大聖堂の身廊と同じ高さ。本当に巨大です。


2019-06-09

抽斗堂 no.26 テラコッタの梟




抽斗堂no.26はテラコッタの梟。全長6cm。1970年代製。自分で調べたところメキシコのトナラ焼きでした。つるつるした石のようにみえるのは、表面が瑪瑙石で磨かれているから。絵筆の走りが大津絵っぽくて、柳宗悦が好みそうな雰囲気です。

てのひらに包むと安心感があり、背中の白鳥もかわいい。

2019-06-07

抽斗堂 no.25 昔の定量ポーラー




抽斗堂no.25は定量ポーラー。1950年代のビンテージで、トランプ柄の軟派デザイン。食前酒用ゆえシングルより少ない20mlタイプです。古道具屋で1€でした。

定量ポーラーはボトルの口にとりつけると、さかさまにしたとき決まった分量だけ注げるようになる道具ですが、これはまず球体部分に酒を移し、そのあと筒になった先の蓋を外して杯に注ぐのではないかと思う(違ったらごめんなさい)。

もっとよく構造を見たい方はこちらをどうぞ。

2019-06-06

東京逍遥



今回も数えきれない初体験がありました。なかでも印象ぶかいのがこちら。

【ラクーア】フランス人の友達に「時差ボケに効くよ!」とずっと勧められていた東京ドームのスパ。時差ボケ改善はともかく本気で遊べる穴場でした。超おすすめ。
【新宿御苑】あんなに人がいないとは! あらゆる観点からみてデート向きの場所。
【寛永寺の墓地】昼下りの墓地ってえもいわれぬ恍惚感がありますね。白昼夢めいてもいるし、人類学的興味も触発されるし。なによりここにいる人みんな死んでるんだなと思うとすごく可笑しい。また見たいな。
【タカノフルーツパーラー】中高年女性率が高い。とても綺麗でどきどきしました(ごちそうさまでした)。
【千疋屋のマンゴーカレー】店内の物音がやわらか。フルーティーで濃厚なのにさっぱりしたおいしさ。
【バーミヤン】中華のファミレス。量が食べられないタチなのでふだんは諦めているラーメンを、小鳥書房のイベントのあと、KさんとNさんと一杯を3等分して食べることができてラッキーでした。
【おみくじとかき氷】おみくじってあのような仕組みになっているのですね。かき氷はとても美しい食べ物で、優しさと思索的な雰囲気とが同居していました。