2024-05-14

手離すたび本は面白くなる





先週末は2夜連続のトークイベント。総勢約130名の方にご来場およびご視聴いただいたとのことで皆様ありがとうございました。

5月に入ってから体調を崩してしまい、今回の東京滞在は取材1社以外、予定をすべてキャンセルしてイベントにのぞむことに。関係者各位との顔合わせなし、書店回りなし、招待先への訪問なしという状態だったので、無事終わってほっとしている。

イベントではいろんな話が出たけれど、一番苦労したのが本とわたしとの距離感について説明することだった。そんな中、下西風澄さんが「自分が良しとするわけではない作品であっても引用する」という私の態度に共感してくださったことに安堵し、また山本貴光さんからは「なぜ本を愛しすぎてはいけないと思うのか?」という恐ろしく直球の質問を受け、イベント終了後もその答えをずっと考えていた。で、ぼんやり分かってきたのは、本を愛しすぎないというよりむしろ愛するという行為を愛しすぎない、要は煩悩にふりまわされたくないと自分が願っているってこと。わたしは本を自己規定の具にしたくないのだ。砂浜の貝殻を拾うように手に取り、その響きに耳を寄せ、臆せず手から離す。で、この最後、手から離す、という行為に何か大切な秘密が隠されているような気がしている。ひとつの断ち切り・断念の瞬間に、読書の記憶あるいは体験が劇的な変容する予感のようなもの。

もうひとつ「本当のことだけを書きたい。なぜなら本当のことしか面白くないから」という話。こっちの理由はシンプルで、自分に残された時間がそれほど長くないと思っているからだ。本当とは何かを探求することがもはや日々の課題といってもいい。