2021-05-29

どこまで行っても青い海





浜辺のレストランが本格的にはじまった。魚介類を焼いたおいしそうな匂いでつっぷしそうになりながら、海岸道路を歩く。ああ。わたしも何か食べたかった。前回この町のレストランに入ったのは昨年の2月27日なので、ちょうど1年3ヶ月前になるが、レストランの再開(まだテラス席のみとはいえ)がこんなにも肉体に喜びをもたらす(まだ実際に食べていないとはいえ)ということに改めて驚愕している。これまでは理念としてしか、つまり精神としてしかその重要性をきちんと理解していなかったのだ。


ところで数日前に活動写真弁士の話を書いたら、思いがけず定型詩関連の知人から「私も好きです」とか「音源もってます」などといったメールが舞い込んだ。きわめつけが「同世代の弁士に習っていたことありますよ」という知人。彼は私にとってもっとも身近な一人なので、とつぜんの告白にのけぞる。ううむ。短詩系の人ってこの手の文化と近いのかもしれない。

2021-05-26

幻の『ウォータースポーツ』



来春に句集が出ます。あっと驚く構成になる予定です。タイトルはどうしようかな。前回『フラワーズ・カンフー』をつくったときは、別案として『ウォータースポーツ』というタイトルに、サングラスをかけたうさぎの女の子がサーフィンをしているイラストを添えるというのがあったのですが、わたし以外の誰ひとり賛成しなくてボツになったんですよね。そっちにしてたら今頃どうなってたかしらって、たまーに思います。

話は変わって、以前、生駒雷遊について調べるのに苦労したことがあって、ああ、そのころに片岡一郎『活動写真弁史』が刊行されていたら良かったのに、と思ったのがつい数ヶ月前。で、今日スケザネ図書館をみたら、


なんと活動写真弁士の片岡一郎さんがご出演でした……。お喋りだけでなく実演もなさっています。片岡さん、とても面白い方で、後編が楽しみすぎる。

それにしても、そんなにも活動弁士が少ないなんて、なんだか信じられません。私、2018年の秋にニースの映画館で、坂本頼光の活弁&生演奏つきの『雄呂血』を観て大泣きしてしまったことがあるんですが(こちらの日記です)、会場は満席で、ほんとに素晴らしい上映だったし、知る機会さえあればハマる人の多いジャンルのように感じるのですけど、でも、まあ、なにごともその「知る」ってのが難しいんですよね。そういえば先日JALに乗ったら、JAL名人会のパーソナリティが坂本さんで「おお!」と思いましたよ。

2021-05-24

いつしか凧は夢を見てゐた





日曜日。ハイクノミカタでお世話になっている堀切克洋さんがニースにいらしたので、海辺のカフェへ行く。カフェはすごい強風で、パラソルが倒れたり、椅子が飛んだり、していた。しかしながら天気は良かったので、めげずに一時間ほどのんびりする。堀切さんはすてきな雰囲気をまとった人だった。シャガール美術館行きのバス停でお別れし、帰宅して春の短句を整理する。

思考停止の輪のかざぐるま
いつしか凧は夢を見てゐた
こつそり花の種を蒔く星 
ある晴れた日の水ぬるむ壺
そして古巣に残されし玉

2021-05-19

作品16句「マグリット式」





俳句四季6月号に、作品16句「マグリット式」を寄せています。

* * *

外に出ると、草花が陽に匂う。ランタナ、チェリーセージ、ブラシノキ、スタージャスミン。家ごとに生垣がちがって見飽きない。オリーブの樹木がきなり色をした小さな花をつけ、ナツメヤシの幹の皮のむけた傷口から、いったいどうやって種をつけたのか赤い花が湧いている。幹から血がふきだしてるよ!と誰かが叫ぶ。次の瞬間、子どもとすれちがう。思わずふりかえると目の前がレストランだ。今日からコロナの自粛があけて、カフェとレストランのテラスが再開している。陶器や酒瓶のかけらを埋めこんだ漆喰塀の上から、おおなだれといった調子でブーゲンビリアがこぼれている。

2021-05-14

さいきんよく聞かれる話





さいきんコロナワクチン接種の状況について聞かれることが多く、日記でも軽くふれるようにしていたのだけれど、もっと詳しく知りたいという方が何人もいるので、簡単に書いてみる。ただし私が書くのはニースのこと。ほかの自治体がどうなっているのかは知らない。

ニースでワクチン接種のオンライン事前予約が始まったのは2020年12月15日。この段階では既往症のある人の予約番号が自動的に繰り上がるようになっていた。

医療関係者への接種開始は2021年1月7日。1日につき5000人接種の目標が初めて達成されたのは4月3日。私自身がオンライン事前予約をしたのは、そこからさらに21日後の4月24日。街角や公共の乗り物に《唯一の解決策 = ワクチン接種》と書かれたポスターが貼られ出した日から数えるとかなり時間が経っていたけれど、これは副作用が怖くて様子を見ていたせい。

で、予約から19日後の5月13日に接種した。会場に若い人が多いのが不思議だった。が、家に帰って地元紙をみたら、50歳以上の人は予約なしで打てる別会場があることがわかった。

家人は医療・警察・教育関係者の枠に入るため、勤め先から一斉メールが届いて4月13日と5月11日に済ませている。

2021-05-13

ディキシーランド・ジャズの午後





昼下がり、コロナワクチンの接種会場に向かう。

接種会場の入り口で順番を待っていたら、三人のディキシーランド・ジャズメンがいた。最近あちこちの接種会場で話題になっている音楽家の生演奏のようだ。ジャズメンは黒いスーツに白黒コンビのエナメルシューズといったいでたちで、手には4弦バンジョー、トロンボーン、トランペットを携えている。

雪の結晶のように枝分かれした大きな多角形の葉影を、椰子は地面に落としている。舞台の演出みたいだ。そよ風にゆれる葉影を踏みながら、ジャズメンはゆったりと楽器を鳴らしていた。

2021-05-12

折り返し駅で色なき風が降り





13日はワクチン接種。好きな製品をえらべるようになっているのだけれど、信用できる情報などといったものは存在しないから、とりあえずファイザーにしておいた。

連句は秋の長句がまわってくる。いつものようにまずは詠み、そこからルールに沿っているものを選んでメールする。

折り返し駅で色なき風が降り
秋下駄のちやらんぽらんと鳴り響き
マネキンの目に映るものぜんぶ萩
秋の日のパントマイムは浮くやうに
幽霊が秋の蚊となる副作用
こほろぎも黙す蜘蛛巣城の闇
くさびらも笑ふ蜘蛛巣城の闇
こすもすになりたき子象たちの駅

2021-05-07

息吹きかへす紙の飛行機





その辺の植え込みに菖蒲が出ていまして、これが雑草みたいで、つくづく眺めてしまいます。菖蒲といえば、この国でいちばんポピュラーな家紋って菖蒲かもしれません。フランス王家の紋章でもありますし。こんなデザインなんですけど。


ファッション関連でもけっこう使用されてますよね。そんなわけで、雑の短句をブログにメモ。

息吹きかへす紙の飛行機
風をうごかすモナリザの笑み
ドン・キホーテの剣の手ほどき
鳥なき森のものがたりせよ
これがあのとき撒いた贋札

2021-05-06

みんな風を見ている




時間がかかっていた原稿の初稿がやっとできた。まだ文章に余熱が残ってはいるものの、あとは冷ませばよいと思うとほっとする。書くことのコツって、自分の思いを変に大切がらないことだ。今回の原稿は、締め切りまでになんとかそこまで辿りつけそう。

今日は風が強かった。海に出ると水着の人たちがシートを敷いてくつろいでいた。そしてみんな風を見ていた。見たくなるような風なのである。パラグライダーの準備をしている若者たちも風を見ている。


彼らも風を見ている。右の男性はファンキーな銀髪を、白い炎のようにくゆらせながら。


彼も風を見ている。いつまでも漕ぎ出さずに。


あのこも風を見ている。そして全身で遊んでいる。表になったり、裏になったりして。

2021-05-03

ある日のお茶





毎週日曜更新のハイクノミカタを休載したせいか生存確認のメールが届いたのでブログを更新しにきました。駆けつけ3短句。

なしのつぶてが届くてえぶる
おれの手紙に涙するおれ 
縊死の縄ある塗師(ぬし)の庭かな

しばらく野暮用で下界との交信を断っていて、きのうはっと気づいたら町がすっかり初夏になっていた。ベランダを裸足で歩いてもぜんぜん冷たくないので、さっそく椅子を出して素足にサンダルでお茶を飲む。お菓子はミニサイズのクロワッサンとパン・オ・レザン。