2020-06-29

ハムのピンク(澤の俳句 14)





新涼やギンガムチェックの三姉妹  佐々木千雅子

この句のキャラクターをつくっているのは「三」という数字。この数字のおかげで句の輪郭がぐっと鮮明になっています。またこれと同様の感想を〈師を囲みマスクメロンを六等分〉〈新涼や四隅伸ばして布巾干す〉にも持ちました。選り抜かれた道具立てで生活の一コマをピンナップする確かな技倆、登場人物の機微をかもすほどよい抒情、余裕のある雰囲気なども魅力的。

ハムカツのハムのピンクやビール干す  田中 槐

俳句的トリヴィアリティあふれるハムカツの断面。やたらかわいいピンクという語。お酒のすすむB級グルメ的色彩。カタカナ多めのカジュアル感覚。座五〈ビール干す〉の定番感。と、こうした要素が読者を幸福な気分へと誘っています。〈ハムのハム/ハムのピンク/ピンクやビール〉といった韻律展開も好きでした。

2020-06-28

手早さの香り(澤の俳句 13)





そろそろ自由律の季節だよねと思っていたら、今週の週刊俳句がなんと崎原風子の読書会。しかも来週も続くの。嬉しすぎる。

ル。地平に一挙にたたせる紙の円筒  崎原風子
ルの箱の中 主よ肉いちまい越えるあかるさ
い。救いの曇天にあるフィジカル楕円
ン。洪水の記憶が石のようにとぶ

* * *

蟻塚に風の音ありタンザニア  ガイ

体験したそのまんまをさらりと自然体で語っていて気持ちいい。0号のスケッチブックを抱えて旅する絵描きが、ささやかだけど印象的な風景を手早くまとめたような味わいのある句です。手早さの香りを醸し出すのは俳句の得意とするところで〈蟻の巣にガムの蓋せり女の子〉〈電気街籠に盛らるるコード夏〉なども風景の中にある質感を捉えた紀行文風の俳句スケッチだと思いました。

鱒二書の勧酒すずしく奥座敷  野崎海芋

于武陵「勧酒」を訳した井伏鱒二の書額のかかる奥座敷でしょうか。丁寧な言葉運びが心地よく、一読意明瞭、どのような空間かぱっと想像できるところがいいですね。ところで、こういう場所でごはんを食べるときって、変な掛け物談義が始まって、お世辞にも涼しいとはいえない状況に陥ったりすることがありませんか。私は、掛け物などの調度品を見たとき、その場では何も気づいていないふり、わからないふりをする人が好き。自分にとって、会席における涼しさとはそういうものみたいです。

2020-06-27

映画のなかの夏の巻



七吟歌仙『映画のなかの夏の巻』。連衆は西崎憲、冬泉、岡本胃齋、小津夜景、羊我堂、須藤岳史、摩衆。


付録【花のかへし】。名残裏の花の座で摩衆さんが詠んでくださった挨拶句にみんなで返句したものです(憲さんへの挨拶句は歌仙の中にあります)。


画像作成は羊我堂さん。ありがとうございました。

2020-06-25

『花の誕生』



一部屋しかないアパートに住んでいるから、コロナ騒動以降、同居人の仕事ぶりが丸見えだ。今日は来期のグランゼコール入学者のzoom面接試験。面接は一人につき45分もかかる。終わったあとぐったりして仮眠をとっていた。受験生はあなたの数倍疲れただろうね、というと、うん、面接中にもうへばっていたよ、と同居人。

午前中の面接は、アフリカの某国の生まれで、現在は親元を離れて近隣国のプレパ(グランゼコール受験準備級)に留学中、そこからフランスの学校を目指しているといった、そこそこよくある経歴の若者。暑いのにぴしっとスーツを着て、極度の緊張でほとんど受け答えができない感じだったけれど、幸い面接で落ちることはないらしい。

話は変わって、俳句を書き出してちょうど10ヶ月経ったとき、いったん自家製の冊子に句をまとめたのですが、その冊子の表紙が出てきました。ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』の画面右側の女性を見ながら描いた絵なので、それにあやかってタイトルは『花の誕生』にします(いま決めた)。

2020-06-23

ふわふわのはなし





昨日からシスター・ロゼッタ・サープが流行っている。

* * *

LETTERS第14回に「ふわふわふうみ」というタイトルの手紙を書いたことがあるのですが、ついさっきこんなふわふわの歌があることを思い出しました。

傾城の玉子というも理(ことわ)りや二人寝巻のふわふわの関  冬之

腎情のもれぬやうにと今爰(ここ)に立てる玉子のふはふはの関  雪縁斎一好 

見ての通り色関係です。「傾城の玉子」はあるはずのないことのたとえで、「世に無き物は傾城の誠と玉子の四角」という言い回しから来ています。いっぽう一好の歌は腎虚にならないように強精剤として炒り卵を食べよう(玉子のふわふわは炒り卵のこと)という歌ですね。「ふわふわの関」は不破の関との掛詞です。

2020-06-22

朝のピクニック




昨日は夏至。朝から海沿いにある丘に登った。丘は石灰岩の塊で高さは93メートル。頂上には古代ローマ遺跡とニース城址公園がある。丘の下には戦没者慰霊碑が彫られている。


少しだけ高いところからビーチを見下ろす。水が透き通っている。


どんどん登ると、海が青くなった。



途中の展望台。もっと登る。


8合目から。頂上についたあとは緑の公園でのんびりした。

2020-06-20

エスエフの蜜を吸うセキエツ




今日は海水浴日和。


飛行機も増えてきた。


歩道の石畳。


帰宅。夫がフランボワーズ入りの青い飲み物を作ってくれたので、ベランダで飲む。

今週の週刊俳句に長文エッセイ「エスエフの蜜を吸うセキエツ*11の皿でたどる関悦史の世界」が掲載されています。これは「関悦史一〇〇句選と句論を」との依頼に対し、句論ではなく作品の展示解説で応えたもので、関句を読むための手引き書になっています。関句の素材および修辞の特徴を一望するのに便利です。

ただし修辞に関しては、無論ほんの入り口にすぎません。たぶん百人一首のパロディ「百人斬首」をもっと多めにした方がよかったのでしょうが、でもそうすると関句の素材を展望できず、ということでこのような方式になった次第。

2020-06-19

濡れている文字



今日、某ツイートで見かけたピクチャーレコードがとても素敵だったので、引用元に行って長いヴァージョンを見た。


文字が濡れているみたいで、きもちいい。下は数時間前に挙句になった歌仙より、好きな句を書き出したもの。

針の穴を春風に乗ってぬける  憲
校正刷りを直す緑陰  冬泉 
何の鳥?奏楽堂を風抜けて  胃齋
半音階の味がするパン  夜景
風光り引き下ろされし奴隷商(コルストン)  岳史
喜歌劇ニ幕三場闌(たけなは)  羊我堂
セカイはマッピングされた 詩と花で  摩衆

2020-06-16

雲のくちなわ





夕暮れ。散歩に出かけると、空に、蛇の抜け出た皮のような雲を見かけた。

石鹸を洗ひ流せばくちなはの生身の肉はわたつみのなか  小津夜景

2020-06-13

ラ・ヴィクトリーヌ撮影所




今週の週刊俳句にトップ写真と小文「ニース天文台」を寄稿しました。

上の記事で触れたウッディ・アレン「マジック・イン・ムーンライト」は1920年代の南フランスを舞台に、不思議な能力を持つ女性占い師と、そのトリックを暴こうとするマジシャンの恋を追ったストーリーで、ニースのラ・ヴィクトリーヌ撮影所で製作されています。そんな理由で以前、記事中の動画に登場するセット(開始10秒のところ)をみる機会がありました。こんな作り。



あと私にとって、ラ・ヴィクトリーヌ撮影所といえばトリュフォー「アメリカの夜」です。


2020-06-12

サイ・トゥオンブリな空





ゆうべ、晩ごはんのあと、ベランダから見た空と雲が、サイ・トゥオンブリのらくがきみたい、でした。ラヴ&マヨネーズ。

2020-06-11

甘いハンバーガー




いきなり日本から、新聞や雑誌がまとめて届く。一番古い消印は4月20日。古いなあ。あ、本をお送りくださる方で、わたしから〈届きましたメール〉を受け取っていらっしゃらない方は、到着していないと思ってください。いちいち連絡するのは変かもしれませんが、国際郵便ですし、届いたものには全てお返事差し上げるようにしていますゆえ。


街で見かけたマック・ショコナッツの看板。甘いハンバーガーです。味はわりかし残念であるとの噂。

2020-06-09

追憶はつねに一人の青葉




時の光といえば、荻原裕幸さんの短歌。この方は初夏を詠むのがとてもうまい。わけても淡い光に佇みながらその光に決して心を開き切らない、いまだ蒼く張りつめたたぐいの孤独といったものを美しく詠みます(大事な特徴なので、何度でも繰り返して言う)。

われにはわれの時間流るる悲しみよ追憶はつねに一人の青葉
荻原裕幸

* * *

冬泉さんのところに西崎憲さんがいらして、連句をやることになりましたがどうですかと誘いをうける。もちろん参加する。歌仙「映画の中の夏の巻」。かっこいい! 連衆は7人。これからどんなふうになるのかしら。わくわく。

半音階の味がするパン  夜景

2020-06-06

ジェラートの燃える土曜日



朝から外出。散歩しつつ、3つほど所用をすます。


町の中心の広場。植物がもりもりしていた。海辺はあいかわらずのんびりしている。



午後、1曲につき1奇病をイメージしたアルバム「Hospital Laboratory」を聴く。これはピクチャーレコードで、動画はレコードの回転の様子をそのまま撮影したもの。盤面の絵が動いて見えるのは、蛍光灯の下で扇風機が逆回転して見えるのと同じ原理なのだそうです。ふうん(←よくわかっていない)。宇宙っぽくてかわいい。

ジェラートの燃えて宇宙が永き午后  夜景

2020-06-05

書き手はどのように音を聞くのか?



昨日「三三七拍子は実は四拍子」とのツイートを目にして、ふと、俳句や短歌にも「七五調と四拍子とが連動している」といった考え方があることを思い出しました。

ちなみにわたしも子どものころはそう思っていたんですが、今は違います。理由は100%書き手目線で考えているから。

また仮に「七五調と四拍子とが連動している」という考え方(国語学でいう「拍子」は西洋音楽や西洋詩・漢詩の韻律などと違って少しややこしい)に従うとしても、書き手目線でいうと作品の音数は使用する単語とその組み合わせによって決まるので、各句の文字上限は8音とは限らない。

目をつむり髪あらふとき闇中にはだいろゆふがほ襞ふかくひらく  松平盟子

この歌の第5句は9音ですが、実際の拍子はhの強勢からなる三連符が続くので最大12音まで入ります。もちろん強勢のない不定形(無拍節)の長いフレーズだって、言葉のテンポをひっぱる力が書き手にあればリズミカルに収まるのです。

ついでなのでパフォーマー目線でいうと、わたしは俳句は四拍子ではなく、五拍子七拍子五拍子で読むのが好きです。五拍子が好きなんですよ。日本では夜多羅拍子なんて言われますけれど、実は四拍子より全方位的で安定感があると思うんです。ただ立体的な分、風景を前進させる力には欠けるから、前進に興味がない人向きですけれど。


2020-06-02

4種のベリーとストレートパーマ


食事のあとはいつも同居人がデザートを作ってくれる。これはクランベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリーを砂糖とラム酒の中につけておき、食べる前に煮小豆と混ぜるだけらしい。


今日はくるくるだった髪を美容室でストレートにした。ストレートといっても日本のストパーみたいに、パーマ液をつけた髪をヘアアイロンで伸ばしたりはせず、ただ櫛でまっすぐに梳かして30分放置するだけのやり方。美容室の帰りに見上げた空が、気持ちよかった。