2020-06-28

手早さの香り(澤の俳句 13)





そろそろ自由律の季節だよねと思っていたら、今週の週刊俳句がなんと崎原風子の読書会。しかも来週も続くの。嬉しすぎる。

ル。地平に一挙にたたせる紙の円筒  崎原風子
ルの箱の中 主よ肉いちまい越えるあかるさ
い。救いの曇天にあるフィジカル楕円
ン。洪水の記憶が石のようにとぶ

* * *

蟻塚に風の音ありタンザニア  ガイ

体験したそのまんまをさらりと自然体で語っていて気持ちいい。0号のスケッチブックを抱えて旅する絵描きが、ささやかだけど印象的な風景を手早くまとめたような味わいのある句です。手早さの香りを醸し出すのは俳句の得意とするところで〈蟻の巣にガムの蓋せり女の子〉〈電気街籠に盛らるるコード夏〉なども風景の中にある質感を捉えた紀行文風の俳句スケッチだと思いました。

鱒二書の勧酒すずしく奥座敷  野崎海芋

于武陵「勧酒」を訳した井伏鱒二の書額のかかる奥座敷でしょうか。丁寧な言葉運びが心地よく、一読意明瞭、どのような空間かぱっと想像できるところがいいですね。ところで、こういう場所でごはんを食べるときって、変な掛け物談義が始まって、お世辞にも涼しいとはいえない状況に陥ったりすることがありませんか。私は、掛け物などの調度品を見たとき、その場では何も気づいていないふり、わからないふりをする人が好き。自分にとって、会席における涼しさとはそういうものみたいです。