2019-01-26

時を漂うcafé





土曜日の朝、小包が届く。

差出人はポリネシアに住む古くからの知人。なんだろうと思いつつ開封。ポリネシア・ルルツ島のコーヒーである。同梱のポストカードには「このたびは受賞おめでとうございます」うんぬん。

はて。わたし、なんか受賞したっけ?

で、さらに読み進めると、田中裕明賞受賞のことだと判明。ええっ?

消印を確認したところ、2017年5月発送の小包が、1年8ヶ月の時を経て我が家に到着したことがわかった。いったいこの惑星を何周したのか。そして、ああ、コーヒーの賞味期限が!!!

春めく夜の





今週の「土曜日の読書」は岡本太郎『美の呪力』から夜について書きました。夜の散歩って普段は犬連れの人ばかりですけれど、この日は満月だったらしく手ぶら派が多かったです。

で、このたび『美の呪力』を読んではっと思い出したんですが(本の文脈とは無関係なのでそのつもりで)、自分は本当に長い間〈闇〉がイヤだったんです。

だって、やっぱり人って、紛れもなく〈闇〉から生まれてきたわけじゃないですか。言ってみれば〈闇〉は人と親和性の高い、自己愛的な空間なんですよね。あと〈闇〉の中で聞こえる声はすべて自分の声であり、ゆえにいかなる言葉も独我論にすぎないというのもある。

でも近年は、そういった話が完全にどうでもよくなりました。

俳句を知って、素敵な人と出会って、自分もそうありたいと願うようになってから、否定的な価値付けに意識が向かなくなったというか。

脇目もふらず楽しく生きる時間しか、もう自分には残されていないんだって思うようになった。

  と、こうして文字で書くとなんだか凄くなっちゃうんですけど、実際のところ、てへ、ってなくらいの話なのでよろしく。

2019-01-24

高鳴る譜面



なんだか春の訪れを予感させる陽気なので、ひさびさにレナ・エルリッヒの春っぽい譜面画を眺めてみた。


彼女の譜面画はどれも素敵だけど、私は上の一点がお気に入り。重さを全く感じさせず、風のように展開してゆくところがいい。自転車、釣り、水泳、凧揚げ、焚き火、パラグライダー。ボートもゴム製、木製、エンジン付きと細かい。気晴らしだけでなく、鳥もいろいろ。

しかもこの譜面画、とても俳句に似ていると思う  というか、自分にとっての俳句は、ちょうどこんな感じ。

レナ・エルリッヒはシベリアの大都会ノヴォシビルスク在住。アレクセイ・リアプノフと一緒にPeople Tooというスタジオを運営している。下は乗り物のチケットを再利用したミニチュア・デッサン。

春を待つこころに鳥がゐてうごく  八田木枯


2019-01-23

食の慰め





昨日の狂歌をもういちど引用。合わせたい歌を思い出しました。

味のよきちとり味噌たぶ御書院ここぞ友よぶところなりけれ
豊蔵坊信海
人生のここがいちばんいいところうきうきとして牛舌(ギウタン)に塩
小池純代

そういえば最近、SUMIYOKOIKEなるラベルを右欄に作りました。もしかすると何かの役にたつかもという気がしてきたので。

* * *

ここから全然関係のない話。西洋料理のレシピ以外で、シュークルート(ザウアークラウト)をどう使うか、についてのメモです。

1.ソフトスモークのサーモンやにしんのうす切りと和えて、なれずし風に。
2.韓国風鍋の具材(豚のリエットがあれば、なお良し)。
3.高菜の代用物として炒め物に(酸味が抜けないよう浅く炒める)。

このお正月は1から3まで全部やりました。シュークルートってバケツ買いだからだんだん飽きてくるんですよね。それで何か良い食べ方ないかなあと思ったんです。で、ものすごい発酵だし、即席なれずし風の前菜が作れるじゃん!と閃きました。シュークルートはもちろん生のまま食べます。カイエンペッパーを鋏で切って混ぜてもいい。お客さんが来たときに感動されることうけあい。ソーセージと合わせてぐつぐつ煮込んでる場合じゃないです、ほんと。

2019-01-22

お菓子に寄せる恋




俳句2月号に、金子兜太の初期作品についての寸評を寄稿しています。あと、らん第84号に岡田一実『記憶における沼とその他の在り処』評を寄稿しました。

* * *

今年3個目のガレット・デ・ロワを購入。今年はこれが最後。今朝半分食べて、明日の朝ごはんで残りの半分を食べて、来年までさようなら。

お菓子といえば、カステラへの恋を男色と掛けた、すごく変な狂歌があるんです。

かすてら坊主に寄する恋
若衆に宿かすてらの坊主こそ契りの数のなんばんの菓子
豊蔵坊信海

豊蔵坊信海(ほうぞうぼう・しんかい、1626-1688)は江戸前期の画人で僧侶。ロビン・ギルさんの本を見ると「宿貸す寺⇒カステラ」および「何番=南蛮」とあります。外来語の掛詞って珍しいですよね。

味のよきちとり味噌たぶ御書院ここぞ友よぶところなりけれ
豊蔵坊信海

「千鳥味噌」は江戸品川の東海寺名物だった味噌。で、この歌を本歌取りして「味噌千鳥」というお菓子のことを詠んだのがこちら。

我ばかり友をも呼ばで味わえて猶しおらしきみそ千鳥かな
黒田月洞軒

黒田月洞軒(1660−1724)は吉岡生夫氏の狂歌徒然草によると旗本のようです。どちらの狂歌も、下の句がいいですねえ。

2019-01-19

本を作る、本を売る。





今週の「土曜日の読書」は鴨居羊子『私は驢馬に乗って下着をうりにゆきたい』で、句集を作るところからそれを売るまでの流れについて書いてみました。文字数の関係上、さらっとした話になっていますが、いろんなエピソードがあるので、また何かの本にかこつけて続きを書くかもしれません。

行商中は個性的な本屋さんを見つけると、わあ、ここに置いてもらえたらなあと思うものの、twitterやfacebookからしか連絡がとれないところもあって、SNSをやっていない自分は断念することも多かったです(そうした本屋さんが、フツーに取次経由で仕入れてくれているのを知ったときは本当に嬉しい)。あとSNS未登録だと、どこに納品したかを宣伝する機会もないのですけれど、今日はせっかくなので、どこのだれかもわからない変な女から本をお買い上げくださった素敵な本屋さんのお名前を並べてみます(数件委託あり)。『カモメの日の読書』刊行後、さらに増えました。

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B&Bbook cafe bookishBOOKSf3BOOKS青いカバbooks電線の鳥BREWBOOKSBriséesCAFEめがね書房DOOR BOOK STOREGo Go Round This World! Books&CafeHAHUKIMAMA BOOKSmozicaNENOinostos booksoncafeRethink BooksROUTE BOOKSsonoritétaramu books & cafetoucaUnder the matviolet&claireアダノンキ市場の古本屋ウララオヨヨ書林おんせんブックスがたんごとんカネイリミュージアムショップ6ココシバコトバヤさざなみ古書店せんぱくBOOKBASEタコシェナツメ書店ハナメガネ商会ひとやすみ書店ひめくりひるねこBOOKSふやふや堂ペンギン文庫ホリデイ書店ポルベニールブックストアマヤルカ古書店メリーゴーランド京都メルシーズよもぎBOOKSリードブックスロバの本屋ロンドンブックス伊野尾書店雨の日製作所蛙軒劃桜堂居留守文庫古書ソオダ水古書ほうろう古本冬營舎胡桃堂書店七月堂春光堂森の六畳書房青と夜ノ空双子のライオン堂長崎書店長崎次郎書店乃帆書房文藝イシュタル本屋ルヌガンガ迷路のまちの本屋さん葉ね文庫弥生坂緑の本棚栞日邯鄲堂散策舎トンガ坂文庫ほんやのほ小鳥書房RECOBOOKCafune Booksまがり書房

2019-01-16

122年前のリアル・サバット part 1





サバットはフェンシングの師範ミシェル・カスー(Michel Casseux, 1794-1869)が創始したフランスの近代武術。その起源は古代ギリシアのパンクラチオンに遡ります。カスーがサバット教室を公式に開いたのは1825年で、彼の弟子が「決闘を排した試合、身体強化法、上流階級の護身術」を前面に押し出し、パリを中心に大流行させました。上は1900年の絵葉書。


こちらは作家のテオフィル・ゴティエが1847年8月16日のLa Presseに執筆したサバット認定試合の挿絵。すごく高い蹴り。もともと南フランスには海賊由来のショソン(chausson)なる足技武術があるのですけれど、この挿絵の見出しもサバットではなく〈手技boxeと足技chaussonの認定〉という言い回しになっています。


こちらは1897年の動画。122年前です。この動画を教えてくれた飯島章友さんによると、「むかしの西欧では下半身(へ)の攻撃は下品と見なされていたようですが、サバットは足の攻撃が主流でとても珍しい」とのこと。面白そうなので技の体系を調べてみたところ、フランスのギャング・盗賊・農民の間に古くから伝わる足技を収集・体系化し、のちに英国ボクシングの手技を足したとある。うーん、つまり戦士由来の戦い方じゃないからってことなのかしら。

この動画では古式ゆかしき型がわかるし、棒術も地に足がついています。あ、パリでは昔、紳士はステッキを携えていたから棒術はとても役に立ったみたいです。

2019-01-14

2019年周期律の旅 part 3



毎年、こんなに多くのデザインの周期表が作成されているとは想像もしていなかった。化学者によくある息抜きなのだろうか。今日はオリジナルな理屈に基づく周期表。


樹木型。〈Müller's Tree System〉、1944年。ダーウィン「進化の木」が発想の基本にあるらしい。それよりムナーリの絵本みたい。


総量型。〈Elements According to Relative Abundance〉、1970年。地球上にある各物質の総量の関係をヴィジュアル的に表現している。


視力検査型。〈Chemistry Eye Chart〉、2016年。こういうのを器用に作成しちゃう人っていますよね。研究室の壁に貼るのにちょうどいいデザイン。

2019-01-13

2019年周期律の旅 part 2



きのうのつづき。周期表データベースを見ていたら綺麗な周期表がいっぱいあって、気に入った図を並べたくなった。今日は巻き型デザインのベスト5(順不同)。


連珠型。〈Janet's Lemniscate Formulation〉、1928年作。


銀河型。〈Philip Stewart's Chemical Galaxy II〉、2003年作。


これはいったい何型なのか。〈Hyde's Periodic Relationships of The Elements〉、1975年作。ヘルツォーク&ド・ムーロンのブランデンブルク工科大学図書館もこれと同じフォルムだし、きっとちゃんとした呼称があるのだろう。そういえばアルヴァ・アアルトの花瓶もこんなだね。よし、フィヨルド海岸線型と呼ぶことにしよう。


これは螺旋型。しかしトラック型と呼びたい。〈Clark's Periodic Arrangement of The Elements〉、1935年作。画像は1949年のLIFE誌に掲載されたヴァージョン。かわいい。部屋の壁に貼りたいなと思ったら、当時はポスターも制作されたようだ。


螺旋型。〈Ziaei's Circular Periodic Table〉、2018年作。去年発表されたばかりの周期表。

2019-01-12

2019年周期律の旅 part 1





2019年は周期律発見150周年とのことで、新年からいろんなニュースが聞こえてくる。なかでも興味を引いたのが、以前Science誌に掲載された『俳句つき元素周期表』。119句の元素の特徴を、それぞれ俳句で説明したものだ。

俳句は伝統的に自然に焦点を当てているし、子供が最初に学ぶ詩形だしということで、こうした活用法はいたって普通の感覚らしい。実際に作句したのはイギリスのSF作家で詩人のメアリー・スーン・リー。天文学、生物学、化学、歴史、物理学などの要素がミステリータッチの、暗号文っぽい文体で語られている。例えば水素はこんな感じ。

Your single proton
fundamental, essential.
Water.Life.Star fuel. 

君の単一陽子、
基本的で不可欠な。
水。命。星の燃焼。

ふむ。暗号文というのはインスタント・ポエムに最適かも。画像は2010年にデザインされた円形周期表。

雲の上をゆく



今週の「土曜日の読書」はパラダイス山元『パラダイス山元の飛行機の乗り方』です。役に立たなさ加減がすごい教本。あ、でも天草エアラインについての記述はかなり参考になります。

ところで、私の初マンボ体験というのは、この人のデビューアルバム『マンボ天国』なんですよ。高3の夏休み。これが少し上の世代だと、幼稚園の頃にはペレス・プラード楽団の「タブー」に洗脳、もとい、の洗礼を受けているわけで、そう考えると恐ろしく奥手の初体験です。加藤茶世代と志村けん世代とでは、猥雑さの面において、180度異なる昭和の風景を内面化しているような気がします。

2019-01-10

泣きたくなるでござるの日





11日の読売新聞夕刊[五七五七七]欄に連作を寄稿しています。1月の題は「星」だったので、めいっぱいキラキラさせました。

* * *

知人が金のリボンを結んだ贈り物をくれる。なにゆえ?と思ったら、なんと10日は私の結婚記念日だった。ふと三島ゆかりさんの俳句自動生成ロボットを思い出し、人力で「記念日くん」的連作を書く。A面は阿呆っぽいのができた。B面は、うーん。

記念日の形をした10の小品
dix morceaux en forme d'anniversaire


face A
あやとりと鳥語で叫ぶ翁の日
忍び入る賊やマンションポエムの日
音盤(レコード)を抱きて越冬つばめの日
寒卵泣きたくなるでござるの日
上海は雪ぞショスタコヴィッチの日

face B
冬菫もしもここにの日の墓地に
なんとなう名にし負はばの鳥の日よ
熱燗やおなじみの日を籠もるべく
うたかたの日こそ寿げきりたんぽ
あさきゆめみしの日を嚙む海鼠かな

2019-01-09

光るどろだんご



年末年始、どろだんご用の塗料を調べていたら、子供用「コロピカどろだんご制作キット」なるものの存在を知った。なんてことだろう。そんなものがなくても、ぴかぴかに仕上がると思うのだが。

でも気になったので、もう少し調べてみると「日本古来の左官の技術『大津磨き』を応用することで、誰でも簡単に完全に近い球形で、光り輝くようなピカピカな泥だんごを作ることが出来ます」というどろだんごワークショップまで発見。光るどろだんごって、最近はこんなに極まっちゃってるんですね。

土星なほ
ほのかに眠る
泥団子   (ozu)


2019-01-06

スフレ日和




今日もまだ外は静か。お昼ごはんにお餅っぽいかたちの巨大スフレを焼く。ソースは別につくった。もちもちっとして、よかった。


あと去年のクリスマスに、睡眠管理のためのスマートウォッチを購入したんですが、便利さにおののいています。睡眠以外にもいろんな計測ができるんですよ。文明ってすごい(←購入するその日までスマートウォッチの存在を知らなかった人の感想)。

2019-01-05

la mante?



週刊俳句第611号に新年詠を提出しました。ただ、きちんと考えてつくったものを送ったら「多行不可です」と断られてしまい、あたふたと即吟する羽目に。せっかく考えたのに。もったいないから、ここに載せます。

ゲニウスロキの
眠り薬の
初釜よ

* * *

昨年の忘年会の話。ふいに「あなたが最初にやろうと思った武術って何だったの」と聞かれたんです。それで「蟷螂拳」と答えたかったのですけれど、蟷螂をフランス語でなんというのか咄嗟に思い出せなくて。で、ちょっとだけものまねをしたら「la mante?」とすぐわかってもらえたんですよ。おおっと感動しました。西洋人は昆虫の名前を知らないという風説を信じているわけでもないのに。なんだったんだろ、あの感動。あ、そうかアルコールだ(自己解決)。

BOOKS ON SATURDAYS & CAFE EDO SENRYU





今週の「土曜日の読書」は中西悟堂『フクロウと雷』。文中に引用した文献は『常陸風土記』です。

『常陸風土記』に登場する「天之鳥笛」は鳳凰の翼をかたどったものらしいのですが、もしかしたら上の画像のラッパ形土器がそれだったんじゃないの?と考える人がいるそうです。よくわからないけど、愛らしいかたち。

川柳スープレックスで「喫茶江戸川柳」の連載をはじめます。飯島章友さんが切り盛りする川柳喫茶に私が毎月お邪魔して、マスターの薀蓄に耳を傾けつつ江戸川柳を味わうといった趣向です。今回は初回ということで、まずは口当たりのよい「本歌取り川柳セット」。来月はぐっと渋みのあるメニューに挑戦します。どんな句が出てくるか、まだ私も知らないので楽しみ。わくわく。

2019-01-01