2017-08-20

文字を覚える





平仮名は、それを覚えるとすぐ実践的に使えるといった意味で、とても便利な表音体系だ。

子供はその習得と同時に「りんご」や「でんしゃ」などの単語や短文を一人で読むようになる(つまり「孤独な読書」といった知的作業へ移行することができる)。漢字を覚える段階に入っても、大抵の子供の本にはふりがながついているので、漢字/発音/意味の関係はきわめてクリア。独習可能だ。

一方アルファベットは、それを覚えたところでたった一個の単語すら読む(=発語する)ことができない。フランス語を例にとるならpommeはポム、trainはトランと読まなければならず、アルファベットをそのまま順に発音しても言葉に辿りつかないのだ。そんなわけでフランスの子供は、アルファベットの習得とは別に、数多くの基本単語をまずは文字の塊として一個ずつ暗記してゆく必要があり、またそれには第三者の助けが不可欠となる。

ちなみにフランスの義務教育では、漢字の部首理解に相当する、単語の語源(例:passeportはpasser+portの複合語で「港を通過する」が原意、等)ならびに接頭辞・接尾辞(例:「表現」expressionは「内から外へ」のex-と「押し出す」のpressionとに分割される、等)を学ぶカリキュラムがいつからか廃止されたらしく、その文字の塊が大きくなっても依然として素朴な塊のままという若い人がめずらしくない。

文字を覚える年齢における各人の生活環境が、日本語よりも切実な差異となって現れやすいのがアルファベットの社会ではないか、と感じた出来事がさいきんあったので、以上、メモ書き程度に。