2024-04-19

手と手が語らう静かな場所





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昨夜、ひさしぶりに『菅家文草』の詩を試訳しました。

碁  菅原道真

手談幽静処 用意興如何
下子声偏小 成都勢幾多
偸閑猶気味 送老不蹉跎
若得逢仙客 樵夫定爛柯

碁  菅原道真

手と手が語らう ひっそりと奥まった場所で
意識を集中する えもいわれぬその愉しさよ
碁石を打つ響きはひとえに小さいけれど
碁盤の目の勢いは都を造るかに賑わっている
仕事の合間をぬって打てば気が晴れるし
老境の日々にあっても心は衰えないまま
もしも仙人が碁を打つところに出くわしたなら
きっと時を忘れる 斧の柄を腐らせた樵のように

だいたいこんな感じ(良案を思いつくたびに推敲する予定)。道真は囲碁を題材とした詩をいくつか書いていますが、この詩は冒頭が素敵。上品な香りをおだやかに放ち、おもむろに弦が鳴り出す瞬間の衝撃に似た静かな幸福感が込み上げてきます。「用意」の読み下しは「意を用いる」で、注意する、気を配るの意。「成都」の読み下しは「都を成す」で碁盤の目を都に見立てていると思われます。「蹉跎」は耄碌する。「爛柯」は爛柯伝説(樵が山中で碁を打つ仙童に遭遇し、夢中になってその対局を見てふと気づいたら斧の柄が腐るほど時がすぎ、村に戻ったら知っている人間はもう誰もいなかった)。