遊歩道から砂浜への階段をおりた瞬間、むかし泳ぐのが大好きな犬が、そのカラダのほとんどを海の下にもぐらせていても丸わかりな浮かれ具合で沖へ沖へ泳いでいた 飼い主に置いてきぼりをくらわないか気になるのか、つねに首だけはこちらに向けながら ときのことを思い出した。
犬は、首を曲げている方向に曲がってしまう。それにはっと気づいてまた沖を目指すのだけれど、やはり砂浜の飼い主が気になるようで、すぐにまた曲がりはじめる。それで、いつまでも海中をくるくる回りながら、そのありさまに笑っているのだった。犬が。
犬は、首を曲げている方向に曲がってしまう。それにはっと気づいてまた沖を目指すのだけれど、やはり砂浜の飼い主が気になるようで、すぐにまた曲がりはじめる。それで、いつまでも海中をくるくる回りながら、そのありさまに笑っているのだった。犬が。
春てぶくろにおぼつかなくも棲む海か 小津夜景