2023-03-12

フォークとナイフ、そしてハサミ





いま某所で歌仙を巻いておりまして、話の流れで須藤岳史さんが、

夜景さんの「春深む胸にフォークをしまひけり」って葛原妙子の「早春のレモンに深くナイフ立つるをとめよ素晴らしき人生を得よ」となんとなく呼応しているんです、私の中だけで。

と仰ったのですが、いやほんと、全くそのとおりなんですよ。おそらく発想源は一緒。といっても「フォークの句はナイフの歌を意識して書いた」というわけではなく、そもそも「女性と刃物」の取り合わせが一種の月並みだってことですけれど。だから「刃物系」の句を書くときは、それがあくまでも禁じ手であるという意識がないと痛々しいことになる。「女性と他界」の取り合わせにもこれと同じことが言えますよね。

フォークとナイフのほかにはハサミなんてのもあります。ここでなぜか思い出すのが原采蘋。研ぐけど、ずっとしまったまま。そしていざというとき裁ってみせたのは、しっとりと雨を含んだ雲。清楚なのに色気がすごい。引用します(下の短歌は超訳です)。

吾有剪刀磨未試
為君一割雨余雲
原采蘋

切れ味をいまだ試さぬ鋏かな研ぎし日のまま胸に蔵(しま)ひて
君がため乙女は裁たむひさかたの雨の終はりのあはれの雲を
小津夜景