2018-08-18

大垣の女性漢詩人たち 1





某日。岐阜県の大垣市まで車で遠出し「奥の細道むすびの地記念館」で梁川紅蘭の企画展をながめる。

紅蘭は原采蘋や江馬細香とならぶ江戸期の女性漢詩人。さいきん日本にいた折、数人の方から「小津さんは紅蘭をどう思いますか?」とじかに質問され、そのつど采蘋や細香よりはいくぶん幸福な人生だと思うと答えていたのだけれど、幸福といっても19歳から夫・梁川星巌に付き従って諸国を放浪し、安政の大獄ではコレラで亡くなった星巌の代わりに投獄され、5ヶ月以上黙秘をつらぬいてふたたび娑婆に出てきたという彼女の人生は少しもあんのんとは言えない。それでもわたしが彼女を「幸福」と思うのは、采蘋や細香のように父の命に束縛された人生を送らなかったという点と、ペダンティック愛好とクラシック愛好といった相反する嗜好がその詩画に並存している点とに、彼女の精神が「自由」でありえた痕跡を見るからだ。

そんな話を義理の母としていたら、展示室にいた監視員の女性がわざわざ学芸員を呼んで来てくださる。学芸員は上嶋さんといって、俳句文化振興の仕事もなさっている方だった。紅蘭の画風の変遷についてあれこれご説明いただき、ほんのちょっと身の上を話して、紅蘭研究の資料と拙著とを交換するといったわらしべ的幸運にあずかる。

この企画、素敵な画とたくさん出会えたのもよかった。世間では画といえば細香だけれど、わたしは紅蘭の方がずっと好き。絵画を愛する人ならば馳せ参じてでも観るべし、の品揃えでした。