きのう、ice cream sodaの写真をながめつつ
「飲むのは、炭酸、ちょっと苦手」
という人に
「炭酸は、ちょっと飲みにくい感じが、いいのです」
と指南する。
そのあと、その人がくれたシェーアバルト『小遊星物語』を読む。おもしろい。たとえば、夜の風船果実について。
あるいは睡眠用の風船嚢。
またあるいは気泡煙草。
炭酸って、ここに書かれた法悦に、ちょっと似ている 光に濡れるところも。
「飲むのは、炭酸、ちょっと苦手」
という人に
「炭酸は、ちょっと飲みにくい感じが、いいのです」
と指南する。
そのあと、その人がくれたシェーアバルト『小遊星物語』を読む。おもしろい。たとえば、夜の風船果実について。
そこに光っていたのは、ヌーぜの灯台群ばかりではなかった。樹という樹が果実や花のかわりに大小の風船をつけていて、これが昼のあいだこそだらりと無気力に吊下っているものの、夜ともなれば大きく膨らんだその燐光色に発光する色彩を、夜のふところ一面に撒き散らすのだった。
あるいは睡眠用の風船嚢。
眠りに入る前に、パラス人は背中のうしろに、ある皮膚組織をこしらえた。それは疲労の訪れとともに左右に拡がって、軀の上の方でぴったりと閉じ合わさり、こうして睡眠者の体がいわば巨大な縦長の風船嚢の中に入り込んでしまうのだった。
またあるいは気泡煙草。
この風船嚢の中でパラスの住人たちは気泡煙草を吸った。煙草は左の腕から生えていて、根の一端が口の中に挿しこまれている。そこで口が気泡煙草のかぐわしい香りを呑いこむと、ややあって鼻と毛穴とから小さな気泡群が抜けてきて、これが風船の中でみるみる大きくなり、風船の天井に貼りついてしまう。気泡は軀を洗滌しそして光を発する。
パラス人は眠るときにはもはや発光しない。
炭酸って、ここに書かれた法悦に、ちょっと似ている
サイダーをほぐす形状記憶の手 小津夜景