2023-05-14

暗記できる和歌の数について





去年帰国したとき、詩歌関係の知り合いと話していて、「昔の歌人はいったいどれくらい和歌を暗記してたのか?」という話になった。

昔というのが具体的にいつのことなのか不明だったけど、まあそんなの適当なんだろうから、わたしも「一万首くらいじゃない?」っておおざっぱに言ったらそこにいた全員が絶句した。「それはちょっと多くない?そんなたくさん覚えられるのかよ!」って。無理かなあ。いけそうな気がするんだけど。どう思いますか?

わたし自身、記憶力にあまり自信はないけれど、中学生のころ俵万智『サラダ記念日』を丸暗記したことがある。各連作がストーリー仕立てになっていたので覚えやすかったのだろう、くりかえし読んでいたらいつのまにか頭に入った、歌の歌詞みたいに。ってゆーか、和歌っていったら歌ですよね。フレーズに節がついているから、暗記しようと思わなくても、気楽に読めば身体に染みこむ。昔は今ほど読みものが多くなかったんだし、そんなふうに身体に染みこんだ本が10冊や20冊あって普通だったのではないか。ちなみに『サラダ記念日』には434首の歌が収録されているけれど、目次でいうと15作。つまり15曲入りのアルバムという見方もできる。たいした量じゃない。

記憶力の重要性が薄れた現代でも、歌詞だったら何百曲も覚えてる人間がざらにいる。まずもって童謡が、ぞうさん、むすんでひらいて、おもちゃのチャチャチャ、おおきなくりのきのしたで、いぬのおまわりさん、もりのくまさん、どんぐりころころなど10曲や20曲はすぐ思いつくし、唱歌もたきび、もみじ、朧月夜、荒城の月、この道、あかとんぼ、蛍の光と、やはり童謡なみに思いうかぶ。そこへCMソング、アニメの主題歌、歌謡曲にJ-POPなどを加え、好きなミュージシャンのアルバムとか、いずれも1番が歌えればOKってことでどんどん足していけば、300曲くらいにはなるって人がまあまあいるだろう。それを和歌の文字数で換算しなおすと余裕で一万首に届く。人によっては外国語の歌詞だって覚えているだろう。すごいことですよ。さほど意識せずに、人はこれだけの歌詞を心に刻んでいるんですから、と説明したら「そんなうまくいかないでしょ」との反応。うーん。