2017-01-27

俳句読みと短歌読み



伝説のロックンロール! カンナの、黄!  福田若之

あふれる幸福感の演出とその才筆とが、俳句読みたちに受けている掲句。いっぽう短歌読みがこの句を読んだ場合、塚本邦雄『感幻樂』の連作「羞明・レオナルド・ダ・ヴィンチに獻ずる58の射禱」にある次の歌が頭にちらつくのでは?とおもうのだけど、どうなんでしょう。

靑春は一瞬にして髭けむるくちびるの端(は)の茴香(うゐきやう)の oui !  塚本邦雄

福田の句と塚本の歌は、音楽(ロックンロールvs感幻樂)、伝説および青春との関連性、結句のキメ型、と驚くほどの要素を共有している。

もちろん両作品には差異もある。もっとも目を引く差異は〈若さと老い〉のそれだ(作者のではなく、作中で想定されている人物の年齢です。念の為)。塚本歌の「茴香」の諧謔ときたら、本当にこの上ない。己に対する喘ぐような嘲笑の籠った「oui!」もまた然り。このどこまでも直球の歌がえもいわれぬ魔球に見えるのは、作中人物の理想主義的性格と実際の仮借なき人生との関係が、まさに襞のごとく入り組んでいるからだろう。

「羞明・レオナルド・ダ・ヴィンチに獻ずる58の射禱」は人生の苦みと精神の若々しさとが織り成された連作。謎にみちたモナ・リザの微笑を借景とした次の歌も、ああ、といった感じ。

ほほゑみに肖(に)てはるかなれ霜月の火事のなかなるピアノ一臺  塚本邦雄

燃え上がる火の渦に抱かれて微笑むピアノ。美のイデアの不可触性をひしひしと感じさせる。