2019-12-16

お菓子のつぶやき





ひとくちにお菓子が好きといっても、食べるのが好き、つくるのが好き、眺めるのが好き、調理道具が好き、といろんな種族がいる。

わたしは調理道具が好きで、結婚の折、必要なあれこれを母に揃えてもらった。結婚したあとも、長らく荷物はトランク一個分の私物とその調理道具しかなかった。これはフランスでの仮住まいがいつまで続くかわからず、最小限の荷物で生活を回していたからなのだけれど、そんな状況でも調理道具は必須だったのだ。ステンレスの銀、鉄の黒、ガラスの透明。この三原色の道具をつかい、材料を計って調理台の上にならべると、気分はもう化学者である。

お菓子づくりの主材料には、肉や魚や野菜のような安定したかたちがない。だから出だしの作業は、かたちのないものに手を加え、スポンジ、メレンゲ、クリームなどの部品をひとつずつ形成するところから始まる。時間、温度、軽量を守り、変化自在の材料を手なずけ、ようよう部品が揃ったあとは、それらを一気に交響させる。材料をそのまま煮たり焼いたりしてもとりあえず食べられるごはんづくりとは性格がちがい、お菓子づくりは厳格な、均整主義の、雪のごとき貞操を守っている。