本格的に海水浴がはじまって一ヶ月。きのうはレジャーシートをひろげるためにあたりを見回したら、みんなすっかり日焼けして、なまっちろい人が誰もいないことに気づく。もちろんわたしもすっかり焼けている。というかもう10年近く、焼けていない自分を見たことがない。
わたしにとって海というのはシンプルにうきうきする空間で、波に向かって駆け出す瞬間は、かちゃっと(←カセットデッキのボタンの音です)ビーチ・ボーイズが脳内でかかる。あのアホっぽさがいいのだ。
が、ふいに風の音にかき消されるくらいのかぼそさで、潮の香りのジャズが聴こえてきたりすると、それはそれで「あ」と心にひっかかる。
そういえばさいきん、誰もいない朝の広場でタルト・トロペジェンヌを食べていたとき、いきなりフランク・シナトラのFly Me to the Moonが流れてきたことがあった。どこからだろうとあたりを見回すと、広場に面したCDショップからだった。高齢のヴァカンシエを狙った選曲だったのかしら。シナトラって、全く聴かない人からするとハリー・ウィンストンでゆくクラブのイメージなんじゃないかと思うのだけど、あんがい朝と相性の良い声をしている。
波が引くと濡れた砂浜があらわれ、またたくまに乾く。そのことのふしぎ。