2021-07-07

フィナーレは空ととけあう海だつた





ブログに海のことばかり書いていたら、知人から「そんな毎日泳ぐってすごくないですか?」というメールが来た。むべなるかなと思う。かくいう私も自分がこうなるまでは近所の人たちを見て、どうしてそんな余裕があるのだろうって思ってたクチだ。それがいまでは「仕事帰りに銭湯に寄る感覚だったんだね」と悟った。我が家は午後6時から約30分間泳ぐ。この時間に泳ぐと夜の暑さがこたえないし、肩や背中もほぐれて体調にいい。ここ一週間は波が静かで、水が透き通り、魚の群れが見える。魚たちはわたしのことを生き物だってわかってるみたい。

冬泉さんの捌きで進めてきたD連句は四ヶ月かけて四巡し、とうとう四季がつながった。とても嬉しい。D連句というのは須藤岳史さんの「並行世界連句」なる着想を、冬泉さんがシューティングゲーム「DARIUS」の面分岐にアイデアを借り、そこにダイヤ型の巻き姿を重ねて命名した、挙句が五七五の長句になる無限ループ歌仙のこと。挙句を次の巻の発句にしてつなげてゆく。

白猿の巻

発句〈白猿(ハヌマン)の半跏思惟せる木陰かな/夜景〉を左右からしっかりと支えるように〈島に便りを遣る夏霞/冬泉〉と〈やよ雲海のなぎさ発つ鳥/羊我堂〉と脇がつく。雄大な展開を予感させる素敵なオープニングだ。両脇に海の香りがするところも心が浮き立つ。D連句では長句と短句とが交互に横一列にならぶので、通時的なだけでなく共時的な楽しみも味わえる。

あらましの巻

発句〈あらましは韓江(한강)に吹く白き風/綉綉〉 と脇〈秋のさすらふ若き原人/季何〉〈忘れ扇にきざす漣/冬泉〉のバランスがくらくらするほどかっこいい。16から21の短句がずらりと平淡な味に整ったのも面白かった。
16起こりえぬとは起こりうること/綉綉
17湖底に見ゆる星の交響/拾晶
18はかりがたきは夜の短さ/羊我堂
19山椒魚ら南をめざす/冬泉
20遊べ遊べと囁きながら/岳史
21形代の紙かすかに黄ばみ/胃齋
画像を見るとわかるように、17から20は前句が2句あるので難易度が上がる。当然打越も多くなり、それらを逐一チェックする捌きは大変だ。

少年の巻

これは自分の付句の調子が良かった回。全体で一番好きな付句は22〈南風渡るメイプルソープのTシャツに/胃齋〉。前句は16〈SF(サマーキャンプのフレンドシップ)/羊我堂〉と17〈狂つた泉の小さな世界/岳史〉で、ついつい衒学的遊戯を深めたくなる流れなのだけれど、その予想を裏切り、風通しのよい方向へ舵を切っている。

藍ねずの巻

挙句〈白猿(ハヌマン)の半跏思惟せる木陰かな/夜景〉の前句34〈やがて虹立つ現現現世/志保〉と35〈汗拭きながら仏跳牆(フォーティャオチァン)を/胃齋〉の趣が好き。D連句の円環を閉じるにあたって現現現世にかりそめの虹を架けた志保さんと、かりそめの世など忘れた体で楽しい時をすごしている胃齋さん。どちらにも連句ならではの美しさがある。