2022-07-04

藤の昼、その永き儚さ





博物館の渡り廊下で夫のあとを追う。



季節はどんどん移り変わるし、郵便は届くのに時間がかかる。先週読んだ『トイ』Vol.07は5月の刊行。干場達矢「心変り」より三句。

道具には道具のこころ囀れり  干場達矢

「道具には道具のこころ」といった言い回しに凛とした佇まいを感じるのは、ちょうどこの春開催された柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」を思い出させるからでしょうか。またその凛々しさを「囀」によって実際にくっきりと形象化してみせたのも巧い。

土壇場の心変りは梅のせい  〃

「土壇場」というのっぴきならぬ状況が「梅のせい」という不埒な言い訳に収斂されるところ、大人の日常を切り取った匂いがしていいなあ。私好みです。

藤の昼ことば儚く永くあり  〃

ことばが「儚く」しかし「永く」在るという抱懐と、しなやかで重りかな藤とを合わせることで、日常と永遠とが見事に地続きになっています。ふわふわしていない、心にしっかりと染み入る、愛おしき永き儚さを思いました。