2022-11-23

幼いころの夢





幼いころ、母は「とるぬり」の羽毛でつくった重さのない掛け布団をこしらえ、これを体に巻きつけて寝なさい、と私をしつけた。この村では夜半に必ず夢を見なければならないから、眠る前にそういった工夫をするのである。

夜ごと夜ごと、母は私のために夢もこしらえてくれた。母のてづくりの夢にはいつでも天球が存在し、無数の星たちが無邪気にたわむれていた。庭に転がっていると思ったら、いきなり浮橋の上を歩いていたりする。波の面をすべり、路地裏をさまよい、海の底に沈んだはずが、はっと気がつくと峰々のすきまから顔を出している。月の裏側で憩っていることもあれば、表側でつんとすましていることもある。そんな星たちと遊んでいるうちに、いつしか夜明けは近づき、大地のすそから朝の光があふれだす。すると星たちは、いっせいに空へ駆け上り、朝日の中へと消えていく。

この村ではだれも夜半に目覚めない。夜半に目覚めるとは、夜の囚われの身となることを意味する。つまり、夢の繭からの帰還者ではないということだ。また夢を欠いた、ただの「眠りに落ち」てしまうと、そこは夜の底であり、しかも死であることが多い。そうなるともう夢を見ることはできないから、そこで永遠に眠りつづけるとのうわさだ。私は一度そのようにして永遠の眠りについた人間を見たことがある。