2022-11-18

なにもしない朝





朝おきて、きょうはなにもしない、といいだして、じゃあわたくしもすることがないわ、とこたえたら、きみもすることないのか、といわれた。だからそうよ、といったらきみはうれしげにしてからわらいだしたので、わたくしも、なんだかわらいになった。すると、きみはもっとわらって、もうちょっとうしろむいてみろ、という。

わたくしは、どうしてそんなふうにさせるの? というときみは首のところを指さした、すると、わたくしの首に、かみあとがあることがわかった。わたくしはそのあとをしばらくながめていたが(なぜ?)やがて、それをけずってしまったので、わたくしはそのことをすっかりわすれてしまって、つぎには、なんのことをおもうでもなくなっていた。

そしてふたりで庭へ出て、そこにすわっていた。そのあいだ、わたくしたちはべつべつにものをみた。わたくしたちのまえのほうでは、光がしきりにひらめいている。そしてうしろのほうではわたくしたちはただひとつの影だった。そうでしょう? ほら、枝をおって、ききみみをたててごらんよ。風がうごいている。あのひとたちのように、風にさわぎたてられるのだ。あのひとたちはどこへいくのかしら。あすはきえることばをついばむ鳥みたいに。あさってはまどろんでねたふりをする魚みたいに。そのまたあしたは――そうだね――もうないんだよ!

ああ、びっくりした。わたくしがそういうと、きみは、ぼくもびっくりするだろうと思ったという顔をしたね。そしてふたりとも、じぶんたちのしていることのおかしさがわからなかった。わたくしたちはそれからながい年月のあいだじっと次の朝をまっていた。