2022-11-03

グレープフルーツと世界





句集『花と夜盗』の原稿は下版に入ったが、まだ特典関係のあれこれをやっている。それがわりと大変な作業でずっと机に向かいっぱなし。それでは体力が落ちてしまうので海に行って歩く。そしてぼんやり考える。

わたしはかつて、世界に向かってグレープフルーツを投げつけるひとになりたかった。

もちろんグレープフルーツにもいろいろ種類があって、それこそ「世界の」というやつもあったっけ、と思ってインターネットでみたのだが見当たらない。あったっけてことはなかろうと思い、もいちど本箱を引っかきまわしたが、やはり見つからなかった。それだけでなく『近代短篇名作事典』などにも載っていなかった。なぜなのかと首をひねるほかない。グレープルーフト(またはリーグフレーフか?)という作家がいてそれが「世界中の」という言葉を生み出したということらしいけれど、「わたしも世界中の……だったんですよ」と言ったところで誰が信じるだろう? だって、いつだって「世界中の」という言葉はまぼろしなのだから。