2023-10-19

秋山武太郎と幾何学の歌





日曜日は、Tシャツに短パンで海ぞいの道を散歩すると、まだ歩いているひとの半分は似たような格好で、泳いでいるひともいるくらいだったけど、そこから天気がぐずつき出して、とうとう今日は雨。この雨がやんだらほんものの秋が来るのではないかと恐れている。

12月刊行の新刊。もうゲラができているというのに原稿を三本差し替えることに決め、いますごい勢いで書いている。わたしは毎回これをやってしまう。この追い込まれないと現実がみえない体質、どうにかならないだろうか。

『すばる』連載中の空耳放浪記。今月の題は「穴のないドーナツと幾何学的神話」です。お読みいただけると嬉しいです。文中に引用した秋山武太郎の長歌をここにも抄出します。すごく好き。最後まで読みたくなった方はネットで調べれば出てきます。

幾何学を讃嘆する「うた」 秋山武太郎

万象の微を極むれば
点とこそなれ此の点ぞ
我が幾何学の始源なる
それ一点の行くところ
一たび動けば線となり
二たび動けば面となり
三たび動けば体となる

見よ幾何学の微妙空
平行線か天の川
同心円の月の輪に
流るる星の軌跡しも
推理し来れば幾十線
幾個の角の去来みな
自然の法を自現して

2023-10-01

LE MONDE D'HERMÈS N°83 AUTOMNE-HIVER 2023





LE MONDE D'HERMÈS N°83 AUTOMNE-HIVER 2023 (エルメスの世界 N°83 2023秋冬号)で俳句連作を発表しています。先月より世界中のエルメスの店舗で無料配布中。興味のある方は、どうぞお店の方に声をかけてみてください。カタログは拡張現実になっていて、スマートフォンに無料アプリを入れてところどころのページに翳すと立体アニメーションが楽しめます。

わたしの役割は秋冬コレクションを纏ったHarriet Parryの作品にフランス語の俳句を添えること。また俳句は佐々木未来による豪華な書にもなっています。

カタログは10ヶ国語で展開されているのですが、日本語版のための翻訳は自分でしました。その訳を添えて、気ままにいくつか。

un roseau d’or
pense en rêvant
d’un oiseau oxymore.

金の葦
オクシモロンの
鳥を夢む



klaxooooon!
la lune a plongé
dans un miroir profond.

クラクション
月の飛び込む
深き鏡(きょう)

二句目の上五、最初はun coup de klaxon.と詠んだのですが、なんとklaxonという単語が商標侵害にあたるので使用できないと言われ、抜け穴はないかと考えた結果こうなった次第。制約とは発想の源泉だなあとあらためて実感しました。

2023-09-20

毎朝うろこ雲を見上げている





とうとう夏が終わってしまい、悲しくてしかたがない。時間が巻き戻せないかなって思ってしまう。

「時間を巻き戻す」というのもそうだけど、さいきん、生きてきて、自分の内側から初めて湧き上がってきた言葉というのがいくつかある。たとえば「神」という言葉。ちょっとまえ、ふと「どうして神様は人間を草食動物としてつくらなかったんだろう…!」と思い、思うやいなや自分の発想にたじろいだ。いったいどうしたのだろう。

先週から夫が出張で全州に出かけていて、写真がばんばん送られてくる。上もその一枚。街の風景は京都を連想させる。またハングルがおしゃれ。モダンデザイン的で。モダンすぎて宇宙語っぽく見えることすらある。

宇宙といえば、現在発売中の『すばる』に「ジャズ・フェスティバルと星」と題したエッセイが載っています。トリッピーかつスプーキーな演出を愛するハービー・ハンコックが舞台上の音という音をキッチュな天文現象に変えてしまったこの夏のジャズ・フェスティバルの話から、国立天文台ハワイ観測所の台長だった海部宣男の著書『天文歳時記』へと移行して、とても素敵なハワイの叙事詩に触れました。

2023-09-10

あんペーストのおいしい召し上がり方





土曜日、日本から来た知人と遊ぶ。

朝10時にマセナ広場で待ち合わせ、広場を抜けて海へ出る。海を眺めた後は城跡のある丘に登る。高い丘から見下ろすと、日曜日に開催されるアイアンマン世界選手権の練習をしている選手たちが、サメから逃げているのかと思うくらいのスピードで泳ぎの仕上げをしていた。

昼食後は旧市街で三つの教会と、現在楽器博物館になっているラスカリ宮を巡る。ラスカリ宮で見知らぬ男性に声をかけられる。相手は作曲家で、日本で仕事したときの写真を見せてくれる。そのあとニース近現代美術館で常設展とThu-Van TranのNOUS VIVONS DANS L’ÉCLAT(我々は閃光の中に生きている)を鑑賞。丁寧な思索が感じられる仕事だった。

日曜日の朝はコーヒーと、知人からの手土産であるとらやのあんペーストをパンに塗って食べる。箱の中に入っていた「あんペーストのおいしい召し上がり方」という紙が、ちょうど小さな名刺くらいの大きさで、写真のレイアウトが可愛らいので、しおりにすることにする。夫は隣町の方角へジョギングしに行った。わたしは今から某俳誌の原稿を書く。

季刊アンソロジスト第6号発売されています。連載中の「存在のためのふわふわした組曲」、今回の掌編タイトルは「夜を知る」です。

2023-09-04

小津夜景第二句集『花と夜盗』刊行記念連句「桑の花の巻」



新刊のタイトルが決まらなくて右往左往していたのが、今朝ついに決まって一息ついているところ。この間、いろいろありました。一番大きいのがもうすぐ夏が終わるってことでしょうか。悲しい。

先日、四ヶ月かけて巻いた連句が完成しました。額装は羊我堂さん。素敵なレストランの敷紙みたいな画像で、盛り付けた句がおいしそう。ロクシタンのパッケージっぽくもあります。いま読み直して、今回の初折表六句は、ぐっと円陣を組んでるみたいな手堅さがあるなと思いました。季何さんの「巨帯都市(メガロポリス)のあかりみせばや」の、外連味たっぷりの擬古調のおかげでしょうか。また今回は連衆が多く、多彩なアイデアのひしめいている雰囲気も気に入っています。

2023-08-21

音楽千夜一夜とプリンキピア一般的注解(抄)





週刊俳句第852号の音楽千夜一夜にゲストで参加しています。紹介したのはエミール・ロンドニアンの「Missing Arrow」。さいきん知ったばかりのトリオです。PVの映像はストラスブールの街角。

それはそうと先日、原稿の整理をしていたら奇妙な詩が出てきたんですよ。ニュートン『プリンキピア』の「一般的注解」の翻案詞。いったい何を考えてこんなもの書いたんでしょうか。あまりにもアホらしいので載せちゃいます。長編詩なので一部だけ。恥ずかしくなったら消すかも。

プリンキピア一般的注解(抄)

延長は神のダンスフロア
持続は神のジャムセッション
主はここに そしてどこにもいる
なんだって経験してる そんなスタンス

変わらぬパワーで全域をカバー
スペース&タイムを超えてくフロウ
空間の隅にも、至高のプレゼンス
刹那の時さえ、不変のエレガンス

物体もメンバー入り でも神からの影響はゼロ
神は何も痛くない 物体も神の存在にビビらない
超アクション 超リラックス そうさ神はバリアフリー 
ぶっちぎり最強のスーパースター


2023-08-15

今日はこんなふうに読もう





告知が遅れてしまいましたが、女性誌『Precious』9月号のファッション大特集「愛すべきシャツに出会って秋が始まる」にエッセイを寄稿しています。俳人ならではの視点で、とのことだったので、その切り口からジョージア・オキーフを語ってみました。あと『すばる』連載中の空耳放浪記もあいかわらず続いております。今月号は、ハリネズミ師匠の指導の下、助動詞づかいの訓練をした話をお届けしております。

それはそうとですね、本を読んでいると、つくづく「わたしは遅読派だなあ」と思うんですよ。文章というのはリズムだから、理解するためにはテンポを外さず、それに乗っかっていく方が、ゆっくり読むよりも内容がつかまえやすいという話はたしか前にも書いたことがありますが、にもかかわらずゆっくり読むのは、言葉の並びや息づかいなんかを、好きな曲の数小節をリピートして聴くみたいに楽しみたいからなんですよね。つまり読書の醍醐味を、読み直すことに見出しているわけです。昨日はあんなふうに読んだから、今日はこんなふうに読もう。そうやって、読み方を、日によって変えてみる。スカーフの巻き方を、日によって変えるみたいに。

2023-08-08

ガロンヌ川と雲





ひさしぶりのトゥールーズ。ガロンヌ川を撮る。こんな大きな川だったんだな。小舟は兄弟なのだろうか。雲もわらわら集まって、みんなでどこかへ出かけるようだ。


こっちの写真は京都鴨川風味がある。丸いドームが東華菜館。で、細長いのが四条大橋なの。やはり雲は、みんなでどこかへ行くようだ。