2018-04-03

ペパーの木、風、そして漂白。




わが生活圏ではそろそろ野生のマダガスカルの胡椒が出回ります。それを量り売りで買って、挽かずに粒ごと使うのはささやかな旬の楽しみです。顔を近づけると燻製のように香り、噛めばほんのり甘く、八角茴香や丁子に似た薬効系の上品さ。チョコやケーキ、果物のサラダに合わせてもおいしい。

熱もとれたので昼時のペパーの木に風ある  古屋翠渓

この「熱」はいろんなシチュエーションに嵌る、ふわりと深い表現。じぶんは病気のそれを想像しました。また「ペパーの木」は街路樹や庭木としてポピュラーで、そのざわつきには木陰への愛を謳いたくなる風情があります。

それにしても病み上がりの風というのは、なぜあんなに神聖な儀式めいているのでしょうか。吹かれていると、身体の内側で生命の復活がはっきりと感じとれます。

古屋翠溪には句集『流転』の他『移民のらくがき』『配所転々』といった著作があるようです。強制収容所時代の話を書いた『配所転々』には英語版《An Internment Odyssey》も。或る抑留のオデュッセイア、か。息をのむようなタイトルです。