屋根職人のピアス光るや鳥雲に 𠮷田秀德
〈屋根職人〉の一語が情趣のみなもと。『職人尽発句合』にみえる檜皮司の句〈行く雁を屋根で見送る別れかな〉に唱和したようでもあり、なかなか風流です。またピアスという素材が若者らしさに加えこの道ならではの伝統っぽさをかもしだしています。雲間に消える鳥と耳元の小さな輝きも相性がいいですね。
きつつきの穿ちし軒端雪降り込む 長坂希依子
『江戸職人歌合』の二十番に〈月影の洩るるばかりに板屋根の軒端を少し葺き残さばや〉という屋根葺きの歌があって、これは暮らしの中に風雅を演出するためわざと軒端に空(くう)をこしらえるわけですけれど、きつつきの名匠がおつくり遊ばす軒端の空(くう)やそこへ降り込む雪も、江戸の職人に勝るとも劣らず表情豊かだなあ、と思いました。下五の字余りも安定感があります。