2019-10-09

写生とコマ割り(澤の俳句 4)



イヤーマフはづしイヤホンはづし「はい」
榮猿丸

発明的変句。「はい」の句というと柳本々々が、

「月面のようですね」「はい」音信不通
柳本々々

を始めとしておびただしい数の〈実存主義的はい〉を産出していますが、これについては私、川柳が話体を排除しないために「はい」をめぐる怪作も生みやすいのだろうと察するんですよ。いっぽう猿丸さんの句は出来事の過程を解剖的に写生した〈四コマ漫画的はい〉で、個人的には中崎タツヤ『じみへん』を思い出します。この句の成功の鍵はそんなクールなコマ割りに加え、シンプル&コンストラクティヴな音の配置にあるようです。

余談(と断るまでもなく、この日記は一から十まで余談)ですが、漫画といえば、岡本一平が『新しい漫画の書き方』の中で漫画に役立つ読書の話をしていて、そこでホトトギス派の写生文を推薦しているのをみて「へえ」と思ったことがあります。あと徳川時代の川柳も、わずかな機微を捉えて大局を解剖する技術がすごいから読めと書いている。言われてみれば〈盗人を捕らえてみれば我が子なり〉なんてすぐコマに割れそう。あんがい川柳って世界極小サイズの『事象展開サンプル集』なのかもしれません。