2019-10-17

反古のうらがき



反古といえば、こんな組歌をつくってみた。

かへし見る反古のうらがきあらざらむこの世のほかを思ふよすがに
冬泉

あらざらむこの世の外の思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな
和泉式部

和泉式部の歌は恋ゆえわかりやすい。それに反して冬泉さんのは「いつか私は死ぬでしょう。あの世を思う手がかりに、反古をめくってその裏に書かれた字を見ています」というすごく変な内容。まるで反古の裏側にトワイライトゾーンが存在するかのような口ぶりです。

実は冬泉さんの歌は、怪異現象ファンには知られた鈴木桃野『反古のうらがき』にひっかけています。鈴木桃野(1800-1852)は昌平坂学問所の教授だった人で、この本は学問所にある反故の裏を利用して書いたものだから『反古のうらがき』というタイトルにしたらしい。で、内容はというと、これが江戸の奇談異聞をめぐる読み切りコラムなんですよ。つまり桃野は〈この世のほか〉を思いつつ、反古紙の裏に不思議な話を夜な夜な書きためていたのでした。

おしまい。(ううむ、その辺にある反古の裏側をうっかり見ないようにしよう、何が書かれているかわからないから、と思いつつ。)