2018-02-05

バナナに学ぶリラックス術





『晴』は樋口由紀子さんが編集発行人の川柳誌。以下、高速鑑賞会です。

全身の力を抜いているバナナ  松永千秋

バナナ的スローライフに憧れる身として、今回イチオシの句。バナナというのは楽園風の顔つきをしつつ、でもどことなくうさんくさくて、一筋縄ではゆかない果物。掲句はそんな雰囲気をよく捉えていると思います。

方舟に薄く聴こえる佐渡おけさ  きゅういち

すごくイヤ(笑)。これ以外も、イヤイヤ、と思わず身をよじりたくなる句が多かったです。川柳界には川合大祐さんを筆頭にSFと相性のいい作家がちらほら見られますが、この方にはハチャハチャSFの気があるようす。

ロマン派はつらい朝にも窓を開け  月波与生

わたし、こういう句末を流したスタイルの句、好きなんですよ。とりわけこの作品には狂句の風格もあって、知的でいいですね。

中空のあたりうろうろしておりぬ  広瀬ちえみ

「うろうろ」の使い方が川柳ならではの味わい。また「中空のあたり」は何気にあいまいな把握ですけれど、この手のあいまいな表現が弱さに堕ちてしまわない〈実のある不条理〉が感じられるところが巧み。

UFOを書き漏らしてる明月記  水本石華

いや、ほんとおっしゃる通り、といった句。「書き漏らし」という言い回しに滋味があります。余談ですが、むかし通っていた大学の敷地内には、藤原定家の子孫である冷泉家の邸宅がありました。いや、時系列的にかんがえると、大学の敷地が冷泉家の邸宅を囲んで拡大してしまったのか。

とびきりのケチャップそしてマヨネーズ  樋口由紀子

マヨネーズという語はとてもむずかしいんですよね。ブローティガンのせいというわけでもないでしょうが、ひとはマヨネーズを一種の爆弾として使いたいという欲望からなかなか逃れられない。そうした中、掲句はマヨネーズという語を現実の縮尺のままでつかっていて、たぶんこういうのは珍しいはず。また「マヨネーズ」をさりげなく引き立てる「そして」が隠れた仕事をしているようです。