2018-09-10

翻案と定型





小池純代『梅園』に翻案短歌というのがあって、

J.L.Borges「短歌」より翻案一首
さうであることもさうではないこともあはれやゆめのなかあめのなか
小池純代

みたいな感じなんです。素敵でしょう? こういう遊び、自分もしてみたいんですけど、この人の、下のような翻案をみてしまうと、おいそれとはできなくなります。

なにかしら香るところに灯をともす
その仕草こそ
学といふなれ  

モナドからモナドへうつるつかのまを
見失ふたは
蛍のしわざ

カタルシス無きまま流す涙かな
語るともなく
死するともなく

さはいへど
さはさりながら
さるにても
以上サイバネティックスな古語  

大衆の大の字が
ちと
あかんやん
連衆ぐらゐで
ええのん
ちやうか

翻案された書物は、上から順に、アンリ・ポアンカレ『科学と方法』、ライプニッツ『ライプニッツ著作集』、フレッド・イングリス『メディアの理論』、ノーバート・ウィーナー『サイバネティックス第二版』、オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』(引用はすべてweb版千夜千首より)。

かぐわしき古風と、チャーミングな奇態とが、結ばれあった歌たち。オルテガの翻案には、ほんまになあ、と蒙が啓かれるような気分です。