2023-04-03

ロープがつないでゆく風景





日曜の朝、ぶらついてたら、アパルトマンの外壁工事用の足場のてっぺんから、ゆらゆらとロープが垂れ、その端にペンキ缶がぶら下がっていた。

風もないのに揺れてる。怖いなあ、落ちてきたら大変だわ。そう思ったとき、缶の中からカササギが顔を出して、ぴゅっと飛んだ。二羽、いや三羽いたかも。カササギは楽しそうに、缶から出たり入ったりして遊んでいる。が、わたしの目はそっちよりもロープに釘づけになった。前に見たモンゴルフィエ兄弟の熱気球の動画がとつぜんよみがえって、単純にして万能なロープのすごさにいまさらながら気づいたのだ。

熱気球は風船と籠をロープでつないで空に浮く。帆船も、山登りも、エレベーターも、ロープに命をあずけている。だらんと緩んだり、ぴんと張ったり、吊ったり降ろしたり、ロープはなんでもやってしまう。またロープは構造の主役にだってなれる。吊り橋とか住まいとか。最古の人工的住居であるテントは、その気品ある風貌でわたしを魅了する。尖塔、天幕、帽子といった独特の形が、なんかロマンティックでいいのだ。道なりにつづく市場。満天の星がひろがる砂漠。古代ローマの夜の劇場。ルネサンスやバロックの祭典。どんな光景を心に思い浮かべても、テントはいつもテント特有の魅惑を湛えている。

友だちの家では、手編みの籠をロープで枝に吊るして、庭の巣箱にしている。最初は木の巣箱を置いていたけど、鳥好きの人に「彼らは丸くて暖かい家を好む」と教えられて、いまのやり方に変えたらしい。見に行くと、それはまるで天然の風鈴のようだった。風鈴みたいに揺れる籠に、鳥が住んでお喋りしてるって、なんか素敵だ。