2018-10-23

ペーパー・ノーチラス





週刊俳句第600号に「日曜のカンフー□□いつかたこぶねになる日」を寄稿しました()。日曜日にもカンフーにも無関係のエッセイです。上のたこぶねは、とても好きな一枚。

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で、たこぶねですが、江戸時代の百科事典『和漢三才図会』に、絵入りでこんな記述がありました。

その螺の大きなものは七、八寸、小さなもので二、三寸。形は鸚鵡螺の輩(なかま)に似ていて、ほぼ秋海棠の葉のような文理(すじめもよう)がある。愛らしいものである。両手を殻の肩に出し、両足を殻の外に出し、櫂竿の象(かたち)をして遊行している。(寺島良安『和漢三才図会』)

なんてかわいらしい。椅子に腰掛けて、長い膝下で漕ぐイメージだったのですね。それから、たこぶねの貝殻は薄いため、英語ではペーパー・ノーチラス(Nautilusはオウム貝のこと)とも呼ばれるみたい。すぐさま一首詠みたくなる響きです。

この貝の名前(Argonauta)は黄金の羊毛を探しに行ったイアソンの船から取ったもので、船乗りにとってこの貝は晴天と順風の印になっている(…)たこぶねの話になると、我々は普通の意味での貝の蒐集から離れることを認めなければならない。日の出貝とか、牡蠣とかならば、大概のものは知っている(…)しかしこのたこぶねという珍しい貝では、我々は既に試験ずみの事実や経験を離れて、想像力の世界に向けて船出することになる。(リンドバーグ『海からの贈物』)

帆なきまま進むペーパー・ノーチラス号わうごんの羊を求(と)めて
小津夜景

© Veronidae, wikipedia