2018-12-26

言葉を〈工作〉する





佐藤りえ『景色』には、日常の見え方に少しだけ手を加えたような工作的作品があって、その美術作品っぽい雰囲気がまことによろしいです(*これは豆本ではありません。洗濯バサミが大きいのです)。

雲を飼ふやうにコップを伏せてみる  佐藤りえ

普段からしているなんでもない行為を、言葉のタグをつけることで、全く新しい世界としてインスタレーションしてみせる感覚。この句は「雲を飼ふ」と「コップ」の取りあわせが、センスの見せどころでもありますね。

オルゴール盤いつぱいに春の星座  

そう、ディスク・オルゴールは星座盤そっくり。機械仕掛けの自鳴琴、天文学の香り、そして「いっぱいに春」といった言葉づかいがきれいな化学反応を起こして、少しも難しくない見立てでありながら、発見の気分を醸し出しています。

しはぶいてあたまの穴のひろがりぬ
中空に浮いたままでも大丈夫
しぼられてあはきひかりの世となりぬ

これらは作者の偽らざる所感でしょうか。ともあれ、こんなふうに作者が、自分が生きてゆくためのオリジナルなタグをつくろうとして言葉を〈工作〉する様子には、個人的にとても触発されました。 というのも、俳句をやっていると〈世界をよく見る〉ってどういうことだろうと考えることが多いんですよ。そんな折『景色』を読んで、ああ、そういえば「あたりまえを捉え直す」行為こそが〈世界をよく見る〉ことだよね、とシンプルに思い出したり、ああ文学でなく工作がしたいなあ、と欲望したりしたのでした。