2019-02-21

A NeverEnding Poetry





四吟歌仙 ハミングの巻(夜景・冬泉・羊我堂・胃斎)

起首:2019年 1月26日(土)
満尾:2019年 2月21日(木)
捌き:冬泉 場所:ここ

初折表
ハミングに東風の生まるるフィルムかな  景
 梅の古木に香る爪痕  泉
水ぬるむ夜のはざまへ手をのべて  羊
 壁の路線図すこし斜めに  胃
ネクタイを直してもどる月の裏  泉
 陽だまりに在る梨のつぶてよ  景
初折裏
ぽくぽくと軽車両ゆく秋の雲  胃
 ゑのころ草の遊ぶ子午線  羊
ライナスが消えた未来の窓をあけ  景
 髪を解けばこころさはだつ  冬
こまやかな雨いちめんの野萵苣(ラプンツェル)  羊
 兄弟でゆく現地調査(フィールドワーク)  胃
バスケット・ケースを洩るる息白し  泉
 山のいびきが力タストロフに   景
龍骨に朝のひかりのさしそめて  胃
 渚かなしく右大臣停つ  羊
いもうとの花を手向ける月の島  景
 仰げば浬築雪のいくひら  泉
名残表
奇術師の旅に付き添ふ石鹸玉  羊
 酔余にひらくショゴスの扇  胃
皇帝ペンギン飼育係らタコ部屋で  泉
 山宣死していまは蛍に  景
じやんけんで勝つたら指を哨(ふく)ませて  胃
 さんたまりあはうなづきました  羊
闇鍋とポインセチアの時間論  景
 おどろきはつる冬の胡蝶夢  泉
笹鳴きのスライスチーズをかこむ耳  羊
 木乃伊市長は公人ですか?  胃
お月さまなら許される虚言癖  泉
 ラジオを消せば長い夜となり  景
名残裏
そして舟は霧の忘却の川(レーテー)ただよひて  胃
 プレパラートに沈むたましひ  羊
搭乗のときはガラスの靴を脱ぐ  景
 トランジットで春の虹まで  泉
花冷えて序章の長き物語  羊
 四海しづかに囀りの果て  胃

発句はジョナス・メカスの訃に寄せて。初裏11句目の花の座〈いもうとの花を手向ける月の島〉は月と花をいっぺんに詠んでいますが、これは「月花の句」という手法なのだそうです。ふむ。

個人的に好きなのは名残表・前半6句の流れ。すわ乱入!といった勢いの、場を奪い合う華やかなプレイになって嬉しい。NeverEnding感たっぷりの、明るく開放的なラスト4句もいいな。そんなわけでこの1ヶ月間、たいへん楽しゅうございました。