2021-07-21

少しの読書とたっぷりの海





このところ、海で泳ぐほかに嵌っている遊びといえば、だいたい週一冊のペースで本を読んでいる。こんなに読むのは十代のころ以来かもしれない。読書家と比べればたかがしれた量ではあるけれど、原稿依頼が増えたり(現在やっているのは短詩作品と、新連載の書きだめと、秋刊行予定の本の直し)とか、『いつかたこぶねになる日』の感想がぽつぽつ届いたりとか、そういった事情から「書く」ことに対して多少自覚的になり、他の人がどのように文章を作っているのか観察している。

そんなわけで本を読んでいて、空海はやばいとあらためて思う。ごっつう頭が切れて、気が違ってて、文体が外道してて、めちゃめちゃセクシー。

三界狂人不知狂
四生盲者不識盲
生生生生暗生始
死死死死冥死終

『秘蔵宝鑰』冒頭の漢詩。なんちゅう字面よ。ダンテとか読んでる場合ではないまじで。全文はこうなっている(太字は上の引用の書き下し部分)。

悠悠悠悠太悠悠 内外縑緗千萬軸
沓沓沓沓甚沓沓 道伝道伝百種道
書死諷死本何為 不知不知吾不知
思思思思聖無心 牛頭嘗草悲病者
断菑機車哀迷方 三界狂人不知狂
四生盲者不識盲 生生生生暗生始
死死死死冥死終

悠悠たり、悠悠たり、はなはだ悠悠たり、
内外(ないげ)の縑緗 (けんしょう)に千万の軸あり。
杳杳たり、杳杳たり、はなはだ杳杳たり、
道を云い道を云うに、百種の道あり。
書死(た)え、諷(ふう)死えなましかば、本(もと)いかんがせん
知らじ、知らじ、吾も知らじ、
思ひ思ひ思ひ思ふとも、聖も心(し)ることなけん。
牛頭草をなめて、病者を悲しみ、
断菑(だんし)車をあやつって迷方をあわれむ。
三界の狂人は狂せることを知らず。
四生の盲者は盲なることを識らず。
生れ生れ生れ生れて、生の始めに暗く、
死に死に死に死んで、死の終わりに冥(くら)し。