2016-12-26

反スイート論、そして絶唱。



むかし『塵風』5号で佐山哲郎の

  アンリ・カルティエ=ブレッソン
決定的瞬間といふ宣託を遺して朝の螺旋階段  佐山哲郎

という歌と出会ったとき、即座に
野枝さんよ虐殺エロス脚細く光りて冬の螺旋階段  福島泰樹

を思い出した。どちらも素敵な作品である。

福島と比べてみると、佐山の歌は音の動きが伸びやかで、描かれている光景もキラキラしてこの上なくロマンティックなのに、少しも甘くなく、キレがある。それは言葉のスピードが速いからだ。しかも最後の最後まで速度が落ちない。結句で飛躍しようとせず、あくまで直球を投げ込まれた感じ。痺れる。

ちなみに、さいきん多いタイプの歌はシンパシー系もワンダー系もスイートな点では同じだが、そうなってしまうのは言葉の速度が遅いことに起因しているのだろう、とおもう(例外については、近日中に書く)。

それはそうと今日ツイッターを見ていたら、のなあかりという人に

「男は尻を出してサンバを踊ることはできない。だから、褌を履いて冬の真水に入るんだ。」

という名言があることを知った。この名言をつきつめてゆけば、すなわち次の絶唱へとコンヴァージョンされるにちがいない。

なにも莫いなにも無ければ秋を売る男と成りて我は候  福島泰樹