小池純代さんの歌のなにがすてきかというと、せつないことを呟きながら、ぺろっと舌を出してみせているかのような、シリアスとユーモアの大胆なフュージョンでしょうか。あと本心なのかふざけているのかを読者に明かさない態度や、アフォリズムを搦め手からつかまえるセンスにも痺れます。下はここさいきんの「音信」より。
花
「存在が花してゐる」とは存在が花のことばで話してゐること
花をみてお酒をのんでやなことは嫌と言ふのが詩人の仕事
贋
はつたりとはりぼてが手に手をとつて素顔のやうに真顔のやうに
ほんものをめざした結果ほんもののにせものといふほんものになる
日
昨日までの日常がいま無可有郷ああ青い鳥あんなところに
日のなかに箱ふたつありひとつに死ひとつに生が匿はれをり
銀
冠雪の朝まで生きたその証われの頭は銀を賜ひぬ
粗塩と麻の布巾でかがやかすためだけにある銀製の匙