2021-10-12

人となるつもりが花は濡れたまま





ゆうべ食事の最中、夫の携帯に電話がかかってきた。こんな変な時間に誰だろうと思ったらわたしの主治医からで、電話の向こうで「あんたの奧さんを出せ」と言っている。おそるおそる代わると、数日前にやった血液検査の結果がひどいから、明日の朝、一般診療が始まる前にかならず診療室に来るようにとのことだった。

そんなわけで今日は朝から病院に行った。もっとまめに顔を出せと医者に叱られ、「具合悪くないの?」と訊いてくるので「ええと、別に…」と答えると呆れた顔をされ、その顔が悲しくて、帰宅してからもずっとしゅんとしていた。

窓の外を羊雲が群れをなしてぐんぐん進んでいる。大きくてエネルギッシュであれは羊というより牛だ。夫が淹れてくれたお茶を飲み、少しだけ働き、沈括『夢渓筆談』を拾い読みし、付句を整理する。

跡形もなき戸に花の降りしきり
人となるつもりが花は濡れたまま
しづかなり天狗は花をこぢあけて
巣に還るシュヴィッタースの音響詩

桂男のうつくしき嘘
はらり残盃落人の里
虹を闇討つ神々の角