今週の「
土曜日の読書」は森下典子『こいしいたべもの』から味と香りと恋しさについて書きました。
おいしそうな文章だけじゃなくまずそうな描写も好きです。調理のシーンだったらわりとなんでもいけます。
ところで木下彪『明治詩話』には食の漢詩がいっぱい収録されています。残念ながら調理の詩はないのですが、参考としてひとつ紹介。
「築地精養軒」 服部撫松
肉刺庖丁使不馴
邪賀鱈芋転机辺
洋客含笑見横目
伝毛先生顔赧然
肉刺し庖丁 使い馴れず
ジャガタラ芋 机辺に転ぶ
洋客笑みを含んで横目に見る
伝毛(でも)先生 顔赧然
服部誠一(撫松)は文学者でジャーナリスト。宮武外骨はこの人と成島柳北に憧れて新聞を始めたんですよね。成島柳北は私も好き。初めてナイアガラの漢詩を読んだときは、わお!と思いました。
掲詩の出典である『東京新繁昌記』は文明開化の世相・風俗を漢文戯作体で活写したもので、寺門静軒の『江戸繁昌記』のオマージュになっています。『東京新繁昌記』はバカ売れして、その収益で『東京新誌』を創刊し、それが外骨少年に決定的な影響を与えたという流れ。
あとこの人って変体漢文で有名ですけれど、実は二本松藩の儒者なんですよ。知らなかった。教師時代の教え子になんと吉野作造がいるんですね。