2019-07-31

私のタラソフィリア





夏はあるかつてあつたといふごとく  夜景

いつだったか野鳥愛好家の中西悟堂『フクロウと雷』を読んでいたら、彼は海が苦手で、倦怠感に引き込まれると書いてありました。すごくよくわかります。たぶん海のもたらす憂鬱は、同じ時間が永遠に引き伸ばされてゆくことの恐怖に由来している。海というのは、奇妙な懲罰性を孕んだ固有の時間を有していますから。

もちろん海は楽しいですよ。でもその楽しさのヴェールの裏には嘔吐を誘うような深いメランコリーがゆらめいていて、この二重性がまた曲者なの。とはいえ深い影をもたない海なんてつまらない。まちがったところに嵌ったら死ぬような遊びだからいいんです。海は。

以上、私のタラソフィリア(海への愛)についてでした。エドワード・ホッパーの海とともに。