2019-11-30

砂糖菓子と石




土曜日の読書「砂糖菓子と石」更新。引用は種村季弘『不思議な石の話』より。

日本で水菓子といえば伝統的に果物を指しますが、地元のガイドブックによると、南仏も菓子という言葉が果物と木の実を指していた時代が長いそうです。なんでも冷蔵庫が普及するまで、生クリームやバターを使ったいわゆるフランス風菓子は南仏の家庭料理ではなく(すぐ腐ってしまう)、保存食にもなる砂糖漬けが主だったとのこと。

砂糖菓子と天然石について、夏目漱石『草枕』にすごく好きなくだりがあります。ここです。

余はすべての菓子のうちでもっとも羊羹が好きだ。別段食いたくはないが、あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。ことに青味を帯びた煉上げ方は、玉と蝋石の雑種のようで、はなはだ見て心持ちがいい。のみならず青磁の皿に盛られた青い煉羊羹は、青磁のなかから今生れたようにつやつやして、思わず手を出して撫でて見たくなる。西洋の菓子で、これほど快感を与えるものは一つもない。クリームの色はちょっと柔らかだが、少し重苦しい。ジェリは、一目宝石のように見えるが、ぶるぶる顫えて、羊羹ほどの重味がない。白砂糖と牛乳で五重の塔を作るに至っては、言語道断の沙汰である。(夏目漱石『草枕』)