2021-09-18

ごぼうのはなし





これまでイル・ド・フランス、ミディ・ピレネー、オート・ノルマンディー、コート・ダジュールといった4つの地域を渡り歩いたけれど、どこに住んでもごぼうが買えるのは予想外だった。日本人しか食べないと思いきや、ささがきにしてバター炒めにするそうで。あとサプリ売り場にもごぼうの錠剤が置いてある。肌と髪と爪に効くらしく、わたしもたまに飲んでいる。

フランスとごぼうとの関係を軽く調べてみたら、なんとカール大帝の治世には畑で栽培していたことがわかった。大帝が9世紀初頭に発布した「御料地令」第70条に、荘園で育てるべき植物として草本73種、果樹16種のあわせて89種類がリスト化されていて、ごぼうはそのひとつなのだ。植物はほとんどが地中海沿岸を原産地とするもので、大帝はそれらを薬用および食用として全土に広げようとしたとのこと。もちろん当時の修道院付属荘園の植栽プランもこの法令に準拠している。

下は「御料地令」第70条の翻訳。植物好きの方用です。

「庭園にはあらゆる草本が栽培されることを余は望む。すなわち、ニワシロユリ、ドッグ・ローズ、コロハ、バルサムギク〔モッコウ〕、ヤクヨウサルビア、ヘンルーダ、サザンウッド、キュウリ、メロン、ユウガオ、ササゲ〔フジマメ〕、クミン、マンネンロウ、ヒメウイキョウ、ヒヨコマメ、カイソウ、ドイツアヤメ〔グラジオラスの一種〕、イブキトラノオ〔エストラゴン〕、アニス、コロシントウリ〔セイヨウスズメウリ〕、ヨウシュキダチルリソウ〔キンセンカ〕、アジョワン〔ボールドマネー〕、サーマウンテン、チシャ〔ビター・レタス〕、ブラック・クミン、キバナスズシロ、オランダガラシ、ゴボウ、メグサハッカ、アレキサンダーズ、オランダゼリ、オランダミツバ、ガーデン・ラヴィッジ〔マウンテン・ラヴィッジ〕、サビン、イノンド、ウイキョウ、キクニガナ、ヨウシュハクセン、シロガラシ、キダチハッカ、ウォー ター・ミント、オランダハッカ、ホース・ミント、ヨモギギク、イヌハッカ、ナツシロギク〔シマセンブリの一種〕、ケシ、 フダンソウ、オウシュウサイシン、ビロードアオイ、ウスベニアオイ、ニンジン、アメリカボウフウ、ヤマホウレンソウ、 ワイルド・アマランス、カブカンラン〔オクテノカブラ〕、ワイルド・キャベッジ、ネギ〔ラムザン〕、チャイブ、リーキ、 ラディッシュ、シャロット、タマネギ、ニンニク、セイヨウアカネ、ラシャカキグサ〔カルドン〕、ソラマメ、エンドウ、 コエンドロ、チャーヴィル、ホルトソウ、オニサルビアである。

また、どの庭師も自分の家の屋根にヤネバンダイソウ を植栽すべし。樹木に関しては、以下のものが栽培されることを余は望む。すなわち、各種のリンゴ、各種のセイヨウナシ、各種のセイヨウスモモ、ナナカマドの一種、セイヨウカリン、ヨーロッパグリ、各種のモモ、マルメロ、セイヨウハシバミ、アーモンド、クログワ、ゲッケイジュ、イタリアカサマツ、イチジク、ペルシアグルミ、各種のセイヨウミザクラである。リンゴの品種はゴズマリンガー、ゲロルディンガー、クレヴェデルレン、シュパイエルエプフェルで、甘味のあるもの、酸味のあるもの、よく保存のきくもの、すぐさま食べられるもの、早生のものがある。ナシに関しては、よく保存のきくものを三・四種類、甘味のあるもの、調理用のもの、晩熟のもの[を栽培するように]。」(遠山茂樹「所謂『カール大帝御料地令』第七〇条瞥見」より)