2016-10-01

空のカモメ、海のガムラン



毎朝、日が昇りはじめるころ、おびただしいカモメの鳴き声とともに、ガソリンの匂いとガムランの響きが海からアパートへと届く。ガソリンは停泊所の給油スタンドから。そしてガムランの正体は、停泊所にひしめく小舟の帆柱に、風に吹かれた索具のあたる音だ。

人の手を介さない、ゴーストリー・サウンドの愉しみ。

愉しみは風のあるかぎり日中もつづく。ふとこのサウンドを誰かと分かち合いたくなる。こういった、なんでもないことこそ伝えるのがむずかしいと知りながら。ところが、ル・アーヴルの向かい側にあたるイギリスの海岸で、わたしの聴いたのと同じ音をせっせと録音していた人がいたらしい。なんという幸運。そのお陰で、いまこうやってそれをお聴かせすることができるわけです。