2018-11-02

枕詞使用法(1)





談林俳諧には枕詞の変則的技法が少なくないようですが、私が枕詞の粋を最初に理解したのは、

あかねさす翳とひかりのささめごと誰かあなたと流れゆく星   小池純代

という一首でした。「あかねさす」と「ひかり」との間をくっつけない、その一息分の隔たりに、なるほど、風韻とはこうやって醸すのだなあ、と思ったものです。

小池さんには、勤め人の日常風景を枕詞で綴った連作「鹽の人人」というのもあって、こちらは文字通り談林的な枕詞遊びになっています。

ともしびの明石櫻子ひとひらが地に着くまでの眸(まみ)のうつろひ
沖つ鳥「賀茂鶴」の壜傾(かたぶ)けてとふとふとふと鳴く口あはれ
御民(みたみ)われ生ける證(しるし)よ荒玉のタイムカードに載せる日月(じつげつ)
種種(くさぐさ)の業務繁りて疊(たた)なづく靑山通りビジネスビルぞ