2020-02-12

力強い静けさ





宮本佳世乃『三〇一号室』は静かな写真集のような句集で、一句読み終わるたびその光景がすーっと眼裏に広がってゆきます。またその静けさの中に、見えない世界に対する作者の祈りのようなものを感じました。つまり「力強い静けさ」なんです。

風光る丘の話をしてゐたる
瓶を持つ手のふたたびの霧の中
泣いてゐるひとの隣へ豆の花
かはたれのとほくを飛びし時鳥
空蟬に指の離れてゆきにけり
知恵の輪の片方に湧く泉かな

最後の句は「知恵の輪」と「泉」が一種の縁語なので、それのみだと退屈になってしまうところを、「片方」と限定することで巧みに精彩を極めたと思います。ルネ・マグリットのような「遊びごごろのあるエウレカ」といった雰囲気で、とても愉しい。