2020-02-25

こんな歌をうたう人





抽象画家の展覧会で、気楽に描いたとおぼしき日常の素描を目にするといつも新鮮な気持ちになります。「おお、ふつうの絵だ。しかも上手い!」と妙な興奮を覚えたりして。

『オルガン』20号は丸ごと吟行特集「海芝浦〜横浜」。抜きん出て面白かったのが田島健一の50句です。田島さんという方はかなり非具象寄りの書き手で、生の素描をありのまま披露することってまずないじゃないですか。しかもその素描が吟行だというのがまた貴重。なるほど、道ばたの即興だとこんな歌をうたう人なんだ!と思いました。

駅ひとつ真冬の海に溶けのこる
青をどう使えば駅の寒さかな
わずか冬雲ひろびろとふざけあう
木の深いところが凍る指輪かな
冬晴れの暗がり抜けて同じ猫
湾岸を透けて田園さよしぐれ
狩人の狩りの終わりにある湊
楽団や冬のみなとを遠まわり
見ることをやめれば暗き冬の水
洋家具店みえざる山も眠るなり
人形に羊あつまる小春かな
(田島健一「からしたら」より)

わたしは「真冬の海」と「狩人」が好き。「楽団」はモダニズムっぽい懐かしさ。