2020-02-13

月をたぶらかす花





作者のつぶやきが、作中に挿入された漢詩。

賦薔薇   源時綱

薔薇一種当階綻 不只色濃香也薫
紅蘂風軽揺錦傘 翠条露重嫋羅裙
倩看新艶嬌宮月 猶勝陳根託澗雲
白氏有薔薇澗詩
石竹金銭雖信美 嘗論優劣更非群

薔薇をうたう   源時綱

単一の薔薇が段に向かって咲きほころび
色は濃く 香りも深くたちこめている

蘂は紅 風は軽やかに錦のからかさをゆらし
枝は翠 露は重たげにうすものの裳にからむ

つくづく見る 宮中の月をかどわかす旬の花よ
おまえは勝る 白雲の谷に生えている古い根に
(白居易に「薔薇の谷」という詩があるのだ)

石竹の花や金銭の花がどれだけ美しくても
優劣を論ずればとうてい薔薇の比ではない

夜の宮中に咲く薔薇を詠んだもの。月夜だからこそ色と香とがきわだちます。で、この詩、「白雲の谷に生えている古い根」の意味がわからないのですが、それを作者が「白居易に『薔薇の谷』という詩があるのだ」と小さな文字で解説してくれている。親切な人です。

それはそうと平安時代で赤い蘂ってなんの薔薇だろう。「錦のからかさ」で「うすものの裳」だから、一重から二重くらいの、ワイルド・ローズっぽい、ひらひらした品種?

と思っていたら、『明月記』に「天晴、籬下長春花猶有紅蘂」とあることをこちらで知りました。なるほど赤い蘂は長春花なのですね。