2020-03-07

機屋と紺屋のリトルネロ(澤の俳句 10)





昨日と比べて顔の腫れがずいぶん引く。ちなみに魚は鰊だった。写真はネグレスコの玄関に立つニキ・ド・サンファルのマイルス・デイヴィス像。

父の写譜手伝ふ夜や椎若葉  鳳 佳子

古写本からの書き取りでしょうか。上五中七の情緒が密で濃いので、下五はあっさりとした、しかも句の内部空間を押し拡げるような植物がしっくりくるかなと想像しますが、その点みずみずしさとおおらかさを兼ね備えた〈椎若葉〉はまさに適語。新しい葉をゆらしてさやぐ初夏の樹木というのはそれ自体楽団的でもあります。素材のバランスがうまくいった句。

機屋に嫁ぐ紺屋の娘つばくらめ  古川恵子

歌合における永遠の宿敵同士、機屋と紺屋。私にとっての両者のベストマッチは「職人尽発句合」にみえる〈春陽の日陰や藍の深緑/紺掻〉vs〈夕立や織り込む箔の稲光/織殿〉です。両句の力量のバランスと情景のコントラストがいい。さて、ふつうは紺屋で惚れた腫れたというと「紺屋のあさって」ということわざのせいで悲しいものが多いですが、この句はうきうきした雰囲気で気に入りました。家庭円満や富の縁起物である〈つばくらめ〉の季語も、句意をよりわかりやすくしています。この句の場合、図式の強さは長所です。