2020-03-28

情感のながれる時空





LETTERSでも触れたモンテヴェルディ「オルフェオ」は古拙と現代とが融合した、知的で控え目な舞台。照明の美しさが印象的で、オペラをよく知らない自分にも楽しめるものでした。

見所のひとつは舞台に浮かぶ、特殊なナイロン糸を使った手織り彫刻「エゴ」だと思います。このオペラは物語の展開に沿って「エゴ」が変形し、それによって情感の流れる時空を創出するという、きわめて今世紀ふうの流体力学系装置を唯一の大道具にしていまして、この変幻自在の布のおかげで「柔らかな悲劇」とでもいうべき、たっぷりのうつろいを含んだ独特の香りが漂っています。

また、きわめて演劇的(見世物的)であることが多い「オルフェオ」を、照明、大道具、衣装、ダンス、器楽、そして歌唱といった要素がシームレスになった有機的インスタレーションの方向へと転じてみせたところも感動的です。

踊りについては、どこに重心がかかっているのか一目でわかる彫刻的な振り付けで、ストッキング地の衣装は、キトンをベースにしたシンプルなデザイン。色も控え目で、ほぼ裸に見える群舞については、遠目にみるとあっと驚く山海塾です(思えば舞台の上にホログラフィのように浮かぶ「エゴ」というのも、ちょっとオリエンタルっぽい趣向かも)。

音楽については楽器と歌唱とのあいだの相互作用がわかりやすく、うっとりと心地よい。ほら、歌手が歌うと、楽師の合いの手が入りますよね、この合いの手が、絹に縫い付けたビーズみたいに装飾性豊かで、かつ官能的なのです。