2020-03-11

大地と獣のマリアージュ(澤の俳句 11)





顔の腫れ。動くと腫れるのでまだじっとしている。武田百合子『ことばの食卓』を読む。手に軽くて文字が大きくて、横になったまま眺めるのにぴったり。

潮風やパスタにからめ烏賊の腸  馬場尚美

ううむおいしそう。料理の手際が鮮やかで、食材の湯気までが目に見えるようです。さらに〈潮風〉と〈からめ〉の語が相性抜群ときている。あとこの句形って「手早くまとめました感」を醸し出すのにもってこいですね。アウトドア料理の描写にとてもフィットしています。

結界の扇一本能舞台  望月とし江

私、能を詠うのって難しいと思うんですよ。能って素敵だから、詠む方も気分が躍るじゃないですか。それで二枚目気分の酔っ払った句ができちゃたりする。翻って掲句をみるに〈扇一本〉によって設けられた一線が、恥ずかしい世迷言を口走りそうになる隙を与えない。寡黙な言葉選びが効果的です。

水晶の鏃夏野へ鹿射ぬく  高橋和志

句のすみずみまでキーンとゆきわたる〈水晶〉という語の魅力。護身具としても使われ、邪気のエネルギーを浄化するこの〈水晶の鏃〉が〈夏野〉の舞台をいっそう清らかにしています。射抜かれる鹿、またその鹿が大地へと倒れるイメージも、大地と獣の婚姻のような神話的美しさがありますね。